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39年前の袴田巖さんのメッセージ

 6月11日、東京高裁大島隆明裁判長の決定は、「矛盾だらけ、結論ありき、責任逃れ」のとんでもない内容でした。その日袴田さんは、マスコミの取材に「うそなんだよ。裁判はないんだから」と、死刑執行の恐怖から逃れるため、獄中から続く妄想の世界を必死で守っていました。

 しかし、1980年4月発行の無実の「死刑囚」連絡会議会報4号に掲載された、袴田さんの「死刑囚からの手紙」の中で、当時の横川敏雄高裁裁判長を「無法者」であり、「出世したいための殺人行為」であり、「殺屋、横川敏雄」と弾劾しています。ここでの袴田さんの怒りはそのまま今回の大島決定に置き換えることが可能である事は間違いありません。

 大島裁判長は7月31日付けで退官しました。袴田さんは横川裁判長を「のさばらせておくのは無念」であり、「冤罪者が裁判の正義を託せるものがあるとしたら、それは唯一皆様であります」と、「心ある貴方へ」というアピールになっています。

 袴田さんのこの文章は、静岡県警は冤罪のデパートと言われるほど拷問とデッチ上げが多く、静岡県内の冤罪事件と支援者の関わりをまとめている研究者への、資料整理の中で再発見したものです。

 以下に紹介する文章は、袴田巖さんが39年前、当時発行されていた、無実の「死刑囚」連絡会議 会報4号(代表 篠原道夫)に寄稿したものです。この文章は、まさに大島不当決定に対して発せられたと言っていい内容であり、横川裁判長を大島裁判長に置き換えれば、そのまま今回の不当決定批判であり、他事件への連帯の呼びかけであり、私たち支援者への激文です。

 


 

 全ての皆様方に訴えます。私は、無実の死刑囚・袴田巖と申します。

 一九六六年、昭和四一年六月に清水市横砂で重役一家四人殺し放火事件が起こりました。私は、その当時、本件の被害者の経営する、こがね味噌会社、工場の独身寮で生活して居りました。思えば不当逮捕から深々十四年目に突入しています。

 警察官の物的証拠偽造という悪逆な行為により、私は逮捕されたのであります。そして、連日連夜の拷問的取調べと、卑劣な術策を用いて、完全な病人である私を遂には悪質な騙しうちにかけて調書を一通でっち上げたのであります。

 取調官等は、私が病気であり、暴力の攻めに抵抗できないことをよいことに生命に直接関わる暴行を駆使してきました。そしてうむをいわさず、次々と推測による架空調書を捻出したのであります。

 然し、右の物証偽造並びに調書のデッチ上げという根元的未曾有なる違法行為は、隠しようもなくなりました。即ち、本件発生一年二ヶ月余を経て出現した新証拠血染の衣類の存在によって捜査陣の不正は余すところなく世間一般に暴露されたのであります。

 ところが、一審静岡地裁石見裁判長は、私の無罪証明として不同かつ明白である証拠物の存在価値を頬被りすることによって。一九六八年九月十一日に私に対し暴虐にも死刑を科したのであります。このような司法権力の出世主義が醸す無責任性と不正義さを断固国民各位に訴えるものであります。

 本件に於いては右のような不当行為が警察・検察・裁判所一体の権力犯罪として如何にも露骨に示されました。民衆が安易に裁判官を信ずることは間違いであります。

 私を無罪にするのが正当であった二審における争点は、新証拠の血染めの衣類五点が被告人に結びつくものであるか否かでありました。高裁で行われた三回の装着実験が顕著に関係者に示したものは一致して、新証拠は、全く被告人には無縁であったという事実でした。

 第一に、血染めの白半袖シャツ右肩に二つの損傷に相応する傷跡は、被告人に全く存在していないこと。

 第二に、血染めのズボンが小さ過ぎ、被告人にこれを穿くことは到底不可能であるばかりか上にあげることすらできないのです。もはや無罪は決定的です。

 ところが、二審横川裁判長は、なんら科学的根拠もないまま何とウエスト部分が十三センチも縮んだことにデッチ上げてしまい、本件当時は、被告人に穿けたと空惚けたのであります。そして何よりも許されないことは、弁護人が指摘した問題点に理由さえ示さず一刀両断にするという暴挙に出たのであります。これこそ彼、横川敏雄の無法者としての素顔を象徴していると思います。とにかく彼の判決は、それだけでは有罪の証拠となり得ない、幾つかの事実らしいものを並べたて、このうちの有罪の都合のよい解釈だけをひっぱりだしたのです。

 然し、これらの事実は客観的に見るなら、誰の眼にも無罪という結論を導き出す有力かつ決定的武器なのであります。本件横川敏雄のように初めに有罪という歪曲された結論があって、そのために都合のよい解釈を集めて廻すというのでは、これはもう裁判でありません。

 右横川は、私から公正な裁判をうける権利さえ奪ってしまったのです。

 横川敏雄は、既に退官して居りません。

 然し、彼が出世したいが為に成した本件に対する謂れなき殺人行為は今だ生きております。私は、その被害者です。彼をのさばらせておくのは無念でなりません。社会正義にもそれは反します。この意味で、心ある人民各位に訴えます。

 殺屋、横川敏雄を徹底的に弾劾して下さい。

 彼は卑劣極まる官僚でした。そして本件に対し真実を無視し、無闇に日帝専制に同調しファシズムによる官僚同士の庇い合いという反社会的な心証の悪用の下で司法権を濫用し、無実明らかな民衆に対し死刑を科したのであります。

 この判決内容は、誰が検討しても法令に違反すると同時に、同僚達の非を更なるデッチ上げをもって庇おうと意図した官僚の陰謀であり、それらを恥知らずにもむき出しにした極反動有罪判決であることを断言したものである。

 右の如く国民総てをないがしろにした明らかに誤判は、当然、国民の攻撃によって微塵に粉砕されなければならないと存じます。

 皆様、本件裁判闘争の決戦は、控訴棄却以来四年半ばに達しました。しかし、最高裁の動きは今だございません。この状況は、ある意味から見るならば、本件が勝利への途に乗ったと言えましょう。いずれにしましても、どうか他のフレームアップ事件の御支援も宜しくお願い致します。

 正に係争中の最高裁において、下、中(地裁・高裁)司法権の鮮明な職権濫用を厳しく糾弾し、更に、司法権の無責任さを暴かんが為、不屈の闘志と決意も燃えたぎらせております。不束な私ではございますが、皆様方の御指導御支援を東拘深部より頭を低くしてお待ちしております。

 さて、とみに反動の波高い最高裁に於いて公正、平明が必ずや守られるという保証はない。この意味で、冤罪者が裁判の正義を託せるものがあるとしたら。それは唯一皆様であります。どうか皆様方の厳しい監視によって司法権の混迷に楔を打ち、全ての裁判官に公正と正義を堅持させて下さい。

 

 心ある貴方へ

   一九七九・十一・八

                           袴田 巖

                         (東京拘置所)

著者略歴

  1. 寺澤 暢紘

    浜松 袴田巖さんを救う市民の会

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