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アクセシビリティに100点はない

※『世界』2026年10月号収録の記事を特別公開します。


ウェブサイトは、社会生活を営むうえで、もはやなくてはならないインフラだ。読書をさらに多くの人が楽しむためにも、ウェブをはじめとする「アクセシビリティ」に、出版社含め、企業はどのように向き合っていくべきか。全盲で、アクセシビリティコンサルタントとして活動する伊敷政英さんに話を聞いた。

機械を使って読みこなす

──伊敷さんの視力や読書のありかたのこれまでについて教えてください。

 先天的に弱視で、メガネやコンタクトレンズなどでの矯正もできず、小さいころから0.01の視力で生活をしていました。小学校3年生までは一般学級に通い、4年生からは、弱視学級のある小学校に転校しました。弱視の人って、ノートや本に目を近づけて読みたいんです。一般学級の平らな机だと、姿勢が悪くなるし目にも負担がかかる。弱視学級では、机の天板が斜めに傾く机のほか、単眼鏡やルーペなどの視覚補助道具もあり、それらを使う練習もできました。

 中高6年間は盲学校で過ごしました。点字も勉強しましたが、視力自体はあり、拡大読書器を使った読書は続けました。点字に対して普通文字のことを墨字(すみじ)といい、点字と墨字の両方を使って勉強していました。大学受験の際、僕は理系志望だったので、数学や物理の試験を受けるのに点字ではさすがに難しくて、進路担当の先生に相談し、大学側に拡大読書器での受験を認めてもらいました。大学に入って以降も拡大読書器を使い、主に墨字の本で勉強していました。いまは全盲になって6年くらいですが、点字を読む訓練をまた始めて、感覚を思い出しています。

──現在の読書についてはいかがですか?

 いまはKindleとAudibleがメインです。iPhoneにはVoiceOverという音声読み上げ機能が標準で入っていて、どちらのアプリも読み上げを聞きながら操作できるようにアクセシビリティが確保されています。

 iPhoneの画面上に表示されている本を指で触るとタイトルや著者などを読み上げるので、この読み上げをまず聞き、読む本を選んでいます。さらにKindleの場合は、全文読み上げでストーリーを楽しむほか、気に入った文章を確認したいときは行単位、登場人物の名前を確認したいときは一文字単位など、モードを切り替えて読んでいます。また、VoiceOverには読み上げ速度を調整する機能があります。読みたい本を選ぶときは速いスピードで、本の内容を読むときは少し速度を落として聞いています。なお、弱視だった頃は、iPadのKindleで文字を拡大して読んでいました。

 本の情報は、YouTubeで得ることが多いです。「ゆる言語学ラジオ」や「積読チャンネル」、「ほんタメ」などで紹介された本や、気になる本がKindleやAudibleに入っていないか調べています。YouTubeは、Googleが運営しているだけあってアクセシビリティが確保されていますね。再生や一時停止、早送り操作などもできて、コメントも読めるので、困ることはほとんどありません。

 

アクセシビリティをおりなす「三層」

──電子書籍へのアクセシビリティを考える際に、注目すべきポイントを教えてください。

 アクセシビリティの達成には、三層あると考えています。

 まず、購入先のwebストアがアクセシブルかどうか。KindleストアやAmazon、楽天などECサイトなどで電子書籍を扱っていないと、そもそも購入できません。また、ECサイトはどうしてもコンテンツが多くなるので、視覚障害者には、自分が探している電子書籍がどこにあるのかがわからなくなることもけっこうあります。さらに、webストアでは、購入手続きの際にクレジットカード情報やメールアドレスなどの個人情報を入力するフォームがアクセシブルである必要もあります。

 次に、本を読むためのビューアアプリがアクセシブルかどうか。先ほどもお話ししたように僕は Kindle と Audible をメインで使っていますが、どちらもAmazonが提供しているアプリを介して読書をしています。国内の電子書籍サービスで使用するアプリの中に僕が使えるものは、残念ながら今の時点ではないと思います。

 たとえば、ライブラリから読みたい本を選択したり、本の目次から読みたい個所へ移動するなどの基本的な操作を、VoiceOverで行えるかどうか。また、電子書籍の中にはVoiceOverで読めるものとそうでないものがあります。本を買うとき、僕はその本がVoiceOverで読めるか確認したいので、必ずサンプルを開きます。そのとき、ビューアアプリでサンプルをうまく開けなければ、購入できない。

 そして、個々の本自体がアクセシブルかどうか。小説やノンフィクション作品ではアクセシブルなものが増えていますが、たとえば版面が固定レイアウトのフィックス型は読み上げに対応していないことが多いので、多くの雑誌や、僕の好きな数学系の本はほぼ読めません。

 アクセシブルな電子書籍サービスが欧米に集中しているのには理由があります。欧米では、製品やサービスのアクセシビリティが保障されていないと訴訟になることがあります。州政府や連邦政府がアクセシビリティの担保されていない製品を買わない、つまり公共調達において不利になる流れもあります。

 一方で、日本は、アクセシビリティに関してはまだまだといわざるを得ないと思います。進まない一因は、アクセシビリティが「コスト」であるという考えが根強いことではないでしょうか。業界としては、電子出版制作・流通協議会やJEPA(日本電子出版協会)なども継続的に取り組んでいますので、今後に期待したいです。

 視覚障害のある人のコミュニティのなかで本を読むとなると、サピエ図書館のネットワークがやはり選択肢の1位に挙がると思います。サピエ図書館は、基本的には視覚障害のあるユーザーからの受注生産なので、「この本が読みたい」というリクエストを受けて、音声や点字データがボランティアの方々によって作成され、サピエ図書館のウェブサイトにアップされ、ユーザーはログインすることでそれを読むことができます。ただ、読みたいと思ってから読めるまでにどうしても時間はかかります。また、ジャンルでいうと小説など娯楽系や、東洋医学─これは歴史的に多くの視覚障害のある人が鍼灸や指圧の分野で働いてきていることと関係していますが─などの医療系が多く、逆に、僕のほしい数学の専門書などはほぼないですね。

デジタルしか読めない側の悔しさ

 今回のインタビューにあたって、これはお話ししたいと思っていたことがありました。僕がYouTubeでよく見るチャンネルでは、1冊の本を紹介しつつ、その本を読んで考えたことや理解のプロセス、あるいはもやもやしたことなどを話していたりします。

 MCの方のお話が面白かったり共感できたり、興味をひかれたりすると、当然「その本を読んでみたい」「種本を読んで知識を深めたうえで、もう一度動画を見て議論に参加したい」ととてもわくわくします。

 そんなとき、紹介された本の電子版がなかったり、販売されていたとしてもアクセシブルでなく僕には読めないものだったりすると、とても悔しく思います。議論の上辺だけを聞いてわかった気になりたくないのに、それ以上は中身を知る術、要するに本を読む術がない。面白い動画を見たときに何とか貢献したいけれど、紹介された本や議論のもととなる本を購入することでは貢献できない。読みたい本があるのに読めない悔しさと、怒りに近い感情、それからちょっと罪悪感もあります。

 紙とデジタルの関係という点では、デジタル教科書の議論にも注目しています。文科省は2026年4月に「デジタル教科書を『正式教科書』にします」という方針を出し、これについて、「紙の教科書じゃないとダメだろう」っていう意見が有識者からいろいろ出ています。

 これはすごく残念な展開だと思っています。というのは、デジタル教科書を通常の教科書にするといっても、「デジタル教科書一本にします」とは誰も言ってなくて、紙でも、紙とデジタルの併用でも、デジタルだけでもいいという「選択肢」が増えたというのが、今回の変更の意味です。それを、「デジタル教科書が紙の教科書を駆逐する」みたいな議論にすりかえてしまう。「紙の質感がいいよね」とか「インクの香りがいいよね」みたいなノスタルジーでアクセシビリティを阻害されると本当に困ります。

 小学生のとき、ルーペを使ってもあんまり教科書が読めないので、国語と算数だけ、担任の先生が拡大教科書を手作りしてくださったんです。1ページ1ページ、A3で拡大コピーしたものを貼り合わせて……それをルーペで読んでやっと読めるぐらいの視力でした。先生はすごく大変だったし、僕もそれを頑張って読む。これがデジタルだったら、先生が労力をかける必要はないし、僕自身、視力や見え方によって文字の大きさだったり、色を変えられるので、読みやすい環境を自分で、しかも楽につくれる。

 デジタル教科書の正式教科書化は、2027年施行・2030年使用開始予定です。つまり今は、親御さんとか子どもたちが、先生や学校に「デジタルの教科書を使わせてください」と依頼して、教育委員会に診断書を提出するとか、いろいろな手続きを経て、それが認められてやっと使えるようになる。もし先生や教育委員会から却下されたら、子どもが学ぶ機会が本当に削がれてしまいます。

 もちろん紙が悪いとはいわないです。だいたいこの辺だよねってパラパラめくって、あたりをつけて読む、その便利さもわかるんです。でも、デジタルでしか読めない人たちがいて、その人たちを排除するような論調が出回るのは悲しいです。

ウェブアクセシビリティの現在

──現在はウェブサイトのアクセスしやすさについての助言などを専門に行なっておられます。社会での「ウェブアクセシビリティ」への関心は、高まってきていますか?

 ウェブをはじめとするアクセシビリティにかんする依頼は増えてきています。いまは、「サニーバンク」という、障害者専門のクラウドソーシングサービスのアドバイザーをしています。企業や行政などから、このサイトのアクセシビリティをチェックしてほしいとか、JISに基づく試験をしてほしいといった依頼、あるいは障害のあるユーザーに話を聞きたいといった依頼が多いですね。

 転機となったのは、2024年に改正障害者差別解消法が施行されたことです。これにより、民間企業に対しても、合理的配慮の提供が義務づけられました。

 ただ、ウェブアクセシビリティに関しては義務ではなく、その確保が差別解消法上では「環境整備」に位置づけられていて、これは努力義務なんです。たとえばある企業のウェブサイトが、スクリーンリーダーではその内容を理解できないとき、当事者が会社に電話をして「このページの内容を口頭かメールなどで教えてほしい」といったとします。これは合理的配慮の申し出になるので、過重な負担でないかぎり、その企業にはこれに応じる義務がある。

 でも、ウェブサイト全体のリニューアルまでいくと、過重な負担と捉えられる可能性があるので、すぐには実現できないのです。

──どのようなウェブサイトが視覚障害のある人にとって見やすいのでしょうか。

 障害のある実際のユーザーにとって、どういうサイトが使いやすいのかを言語化するのは、実はなかなか難しいことです。日本では、ウェブアクセシビリティに関するJISがあります。地方自治体や行政機関のウェブサイトはこのJISを尊重しなさいという法律があるので、それに沿ってアクセシビリティの方針を立てていたり、達成基準を満たしているかの試験結果を公表していたりします。ただ、これを適えたからといって、必ずしもアクセシビリティが担保されているわけではないことにも注意が必要です。

 それに、サイト側としても商品を売りたいので、できるだけ動きがありデザイン的にも優れているサイトをつくりたいと思うでしょう。そういうデザイン性や動きとアクセシビリティを両立するっていうのは、やっぱり難しい。できないわけじゃないと思うんですけどね。100点のサイトはありません。この部分は使いやすいけど、こっちは使いにくい、といった面は必ずある。

──強制力を伴う法整備がさらに必要だとお考えですか?

 そうですね。アメリカでは、「障害のあるアメリカ人法(ADA: Americans with Disabilities Act of 1990)」という強い法律があり、すべてのアメリカ人が障害があってもなくても平等に暮らせるというのが大原則です。EUでも、EUアクセシビリティ法(EAA: European Accessibility Act)という法律みたいなものがあって、各国それに準拠するように法整備を整えよう、となっているので、その辺は強いですね。

 僕自身はやはり強制力のある法律をつくったほうが効果的だろうとは思いつつ、とはいえそれで何でも進むわけではありません。それこそ体制整備─アクセシブルな電子書籍をつくる人たちを教育するとか、そうした人たちの雇用を促すとか、いまより製作工数をかけなければならないので、そうしたコスト面でどう支援するのか、経済面もすごく大事です。

 そこは、AIやAIエージェントをうまく使うと良いのかなと思います。アクセシブルな電子書籍を作るとか、すでに流通している電子書籍をアクセシブルにするという作業には膨大な人手がかかります。たとえば元のデータを読み込ませると、AIが分析や修正などにうまく関与して、アクセシブルな電子書籍をつくってくれるみたいな制作フローを作れたり、そこを支援するサービスが出てくると、工数問題解消の大きな一手になると思います。

 実際、スマホの登場によって読書環境や生活環境が変わったし、AIの登場はさらなるブレイクスルーになっています。たとえば、 X(旧Twitter)上の写真の内容がわからないとき、Be My Eyesというアプリを使うと、その写真の内容を解析して、ここに何が写っているかを読んでくれるんです。もちろん間違えることもあるんですけど。画像認識とかOCRに関しては、よいアプリが結構あるので、他にも、郵便物が届いたときにどこから来たのかわからないときにとりあえずiPhoneを向けて、どこから来たのか読み上げてもらいますね。

 今後、AIを使えば、いまアクセシブルでない電子書籍を読むこともできるのではないかと思っていて。たとえば、KindleでVoiceOverには対応していない本を読みたい、または読まないといけないときに、AIと対話しながら読めるようにならないか、と思ったりします。

──AIツールにより個々人が手元で読むことができるようになったとき、出版社側のアクセシビリティへの向き合い方はどうあるべきでしょうか。

 僕自身は、やっぱりつくる側にアクセシビリティの責任を持ってほしいと思います。目が見える人と見えない人の読書体験が同じになるように取り組むっていうのは、出版業界、それから小売業界の責任だと思うので、そこはぜひサービス提供側に頑張ってほしいです。

 支援技術の一つとしてAIを使うのは、便利なのでよいんですが、やっぱりそこには誤りがある可能性がある。たとえば画像認識の結果にしても、それを僕らは「これ間違ってるじゃん」って完全には気づけないわけです。もちろん、信じ込まないように入念にリサーチしたりとか、AIを使いこなす術をユーザーももつべきなんでしょうけど、どうしても「本当に合っているんだろうか」と、ちょっとしたもやもやが常に抜けないところがあって、アクセシビリティへの責任がユーザーに課されるのはつらいです。ただ一方で、僕としては、技術によって自分でできることが増えるのは素直にうれしいことでもあります。誰かに頼むのって、それ自体がストレスでもあるので。

完璧を目指さず、まず一歩から

 アクセシビリティについて、「改正法の施行をきっかけに取り組みを始めたいが、どこから手をつけていいかわからないので教えてください」という質問も多いです。

 そういう企業は、JISに準拠しなきゃ、とか、法律をなんとか守らなければ、という課題意識のもとで来られます。でも、法的な義務の先というか、ユーザーを意識したほうが、お互いにとってやりやすいだろうと思います。コンサルティングの際には、企業や先方のサイトのよい点も指摘するようにしています。これは相手を持ち上げるわけではなくて、アクセシビリティ上の課題がどこかわからないのと同じように、すでにアクセシブルになっているところもわからない。そうなると次のリニューアルでせっかくの良い点を改修してアクセシビリティが低下してしまうという事態にもなりかねません。

 先ほど100点のサイトはないといいましたが、ウェブサイトってほぼ毎日更新されるので、その日試験を受けて、ある程度一定のレベルを満たしたとしても、情報を更新した翌日には変わっているかもしれない。いきなり100点を目指すのは無理だし、精神衛生上もよくない(笑)。それより、まずは早く始めて継続していってほしい。

 そもそもアクセシビリティに100点はないんです。合格点をとってゴールするという発想ではなくて、多様なユーザーとともにアクセシビリティへの取り組みを続けるという姿勢が大切です。本当に何かひとつでよいので、とにかく今日からやってほしいと思います。

(聞き手=本誌編集部)

 

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著者略歴

  1. 伊敷政英

    1977年東京生まれ。2003年ごろからアクセシビリティ分野での仕事を始め、2010年8月より個人事業主として活動している。2018年より障害者専門のクラウドソーシングサービス「サニーバンク」でアドバイザーを務めている。先天性の弱視だったが2020年ごろより全盲。

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