新刊レビュー/藤井誠一郎『ごみ収集という仕事』 評=今井 照
「役所あるある」の一つだが、おそらくきょうもあちこちの役所の窓口や電話口で、「こんなに高い税金を払っているのに、私は何の恩恵も受けていない」という市民の声が聞けるだろう。たとえば滞納の督促を受けるとこういう話になりがちだ。
ただし、そういう人たちも多くは生活ごみを出す。朝、収集場所に出しておくと、いつのまにか目の前から消えてなくなる。市町村の行政サービスのうち、これほど可視的でわかりやすいものはあまりない。特に、ごみの野焼きが禁止されたため、都市部だけではなく、ほとんどの地域でごみ収集は重要な生活インフラの一つになってきた。
著者自らゴミ収集業務を担い取材
筆者の藤井誠一郎さん(大東文化大学准教授)は行政学の研究者で、9か月間、断続的にごみ収集業務を体験し、そこから得られた知見を本書にまとめている。何と言っても本書の魅力は、清掃作業やそのバックヤードにおける作業の一つひとつについての細かい記述である。なるほどこうして目の前のごみが消えてなくなり、しかるべきところに納まっていくのだということがよくわかる。
事例は東京都の新宿区であるが、ここでは直営、民間委託、雇上(ようじょう)、労働者供給事業が入り混じって展開されている。特に東京23区の清掃事業で特徴的なのは、都事業だった頃からの引継ぎである雇上会社の存在だが、おそらく研究者としては初めてその職員にもインタビューが行なわれている。
本書では、さまざまな身分を持つ清掃職員たちに深い共感と敬意が払われ、それだけに、ときとして、排出ルールを守らない市民に対して厳しい言葉が投げかけられる。清掃事業のルポとしてばかりではなく、それを通して地方自治の意味を考える点でも有意義で読みやすい貴重な本になっている。
縮小社会における「公務員」の在り方とは
しかしおそらく筆者にとって、こういう評価だけでは本意ではないかもしれない。なぜならこの本は20万字にも上る長大な論文草稿からのスピンオフ企画だからである。そもそも筆者が出発点としているテーマは「自治体職員と地方自治の活性化――名もなき職員の大きな貢献――」とのことだ。「スーパー公務員」待望論ではなく、「名もなき」多数の職員に目を向けるべきという考え方は全くその通りだと思うが、この観点から見ると、もう少し煮詰めなくてはならない課題もある。
社会システムが近代化された後に迎える縮小社会では、公的セクターの役割が増大する。だから世間で語られているのとは逆に、公的な業務に就く職員がますます必要になる。問題はその職員たちが「公務員」という特別の身分を必要とするか否かである。自治体やその職員のあり方はここで画期を迎えるのではないか。
このまま世情に流されて「公務員」が減れば、どこかで市民生活に穴が空いてしまうが、かといって公的な業務の全てに「公務員」という身分が必要とは思えない。筆者が提言するように、清掃職員が破袋調査をして警察に情報提供をしようというのであれば「公務員」であることが必要かもしれないが、その提言には疑問を感じる。行政学者としての今後の研究に期待したい。