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2020年度実施予定の「新共通テスト」中止と再検討を!

 2020年度からの大学入試で、これまでの「センター試験」に替わって、「大学入学共通テスト」が始まる予定です。この大学入学共通テストの実施が大きな社会問題となっています。
 
  大学入学共通テストは、英語民間試験の実施、そして国語と数学の記述式問題の導入などを主な特徴としています。これらの「改革」については、多くの専門家から疑問や批判が出されてきました。しかし、この時点になってもほとんどの疑問点が解消されていません。
 
違う試験を公平に評価できるのか
 
  英語民間試験は、英検やGTEC、TOEFLなど7種類の異なる試験を活用するとしていますが、違う試験の成績を公平に比較できるのかという根源的な疑問が存在します。
 
  異なる民間試験の成績を比べるために、「各資格・検定試験とCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)との対照表」を大学センターは作成しました。しかし、各テストのスコアとCEFRとの対応づけは、そのテストを実施する団体が独自に行なっていて、文部科学省や第三者機関による検証は行なわれていません。7種類の試験によって有利不利が生まれれば、受験生はどの試験を選ぶかで右往左往することを強いられます。何よりも、この対照表の客観性や公平性に疑問が生じれば、それは入学試験自体の正当性を失わせることとなります。
 
 
準備は万端か
 
 それぞれの英語民間試験の公平さや公正さにも疑問が残っています。どの民間団体も、多くの受験生が参加する試験を、これまでとは比べものにならない厳密さで採点することが求められます。十分な人数の採点者を集めることを含めて、はたして正確で公平な採点を行なう体制を整えることができるのでしょうか。
 スピーキングテストは録音機械を使用するだけでなく、十分なスペースの会場を確保する必要もありますが、その準備は万全なのでしょうか。試験日や試験会場の発表が現時点でもなかなか進まないのは、準備の困難を示しているのではないかと気になります。採点の方式や試験結果の周知時期、事故が起こった場合の対応などについて、現場の不安を払拭するような説明がなされていないことも、大きな問題です。

 また、英語民間試験は経済的負担も重くなります。英検2級が7000円、TEAPが1万5000円、TOEFLだと235ドル=約2万5000円近くかかります。これを2回受験することが求められているのです。それに加えて、これまでのセンター試験よりも試験会場数が限られることから、かなりの数の受験生が高額の交通費を支払うことになりそうです。離島や遠隔地の高校生の場合には1泊2日、あるいは2泊3日となり、宿泊費も必要です。地域格差や経済格差が深刻化することは「試験の公平」原則を崩すこととなりますが、そのための対応は今のところ極めて不十分です。
 
共通テスト――記述式採点も民間委託
 
 2021年1月に実施予定の「大学入学共通テスト」についても、数多くの疑問点が存在します。
 
  まず、数十万人もの規模になる受験生の国語や数学の記述式問題の採点を、短期間で公平に行なうことは本当に可能なのでしょうか。8月30日に、この記述式問題の採点を「学力評価研究機構」(ベネッセコーポレーションのグループ会社)が行なうことが発表されました。民間企業が大学入学共通テストの受験生データ全体を扱うこと自体に、さまざまな疑念や心配が拭えません。採点スタッフの人数は1万人程度必要と報道されていますが、この時期に記述式問題を採点することができる人をそれだけ集めることができるのでしょうか。正確かつ公平な採点の実施、情報漏洩のリスク回避などに大きな疑問が残ります。
 
 記述式問題は、選択式問題よりも試験実施後に行なう自己採点を正確に行なうことが難しいという問題もあります。プレテストでは国語の自己採点と採点結果の一致率が7割程度にとどまりました。数学の記述式問題も合わせれば、自己採点の困難はさらに増すこととなります。実際の得点と自己採点の不一致は、受験する大学の選択や合否の予測に甚大な悪影響を及ぼします。
 
  こうした問題に対処するために、採点の公平さが確保されやすく自己採点しやすい問題を出せば、定型的な形式と採点基準となってしまい、国語と数学で記述式問題を導入する意味自体がなくなってしまうというジレンマが生じます。そもそも数十万人もの受験者がいる試験で国語と数学の記述式問題を出題し、採点するということが、それによって増加する予算や人員などのコストと比べて、十分な教育効果があるのかという疑問は解消されていません。
 
「スケジュールありき」で説明不足
 
 なんと言っても最大の問題は、これらのさまざまな疑問や問題点の指摘や現場の不安に対して、はじめから「改革ありき」あるいは「スケジュールありき」で文科省が事を進め、教育現場や受験生に十分な説明を行なってこなかったことです。
 
  受験生に大きな影響が及ぶ変更がある際は、2年前には予告すると文科省自身が原則として定めています。ところが現在の時点で、「大学入学共通テスト」まで約1年4カ月、英語民間試験まで約7カ月しかありません。すでにこの原則を大きく裏切っているのが現状です。試験を受ける現・高校2年生やその他の受験生、現場教員、保護者から「不安」の声が上がるのも当然でしょう。
 
  全国高等学校校長協会は9月10日に、英語民間試験について、2021年度以降への延期と制度の見直しを求める要望書を文部科学省に提出ました。9月13日の夜には、文科省前で2020年度からの大学入学共通テストの中止を求める抗議行動が行なわれました。これらの動きは現場の不安や今回の入試改革への批判を示しています。
 
  英語民間試験の実施については、文科省が設置したポータルサイトを見ても、実施日や試験会場の詳細が明らかとなっていない試験が、今日に至っても多数存在しています。また、9月1日時点では英語民間検定試験の活用について、国公私大の3割弱が「未定」の状態です。
 
申し込み開始――混乱つづく
 
  こうした状況のなかで、9月18日に英語民間試験の一つである英検の申し込みが始まりました。英検の予約金は3000円で、運営側は当初、受験しなくても返金しない方針でしたが、高校側の反発や文科省の要請を受け、予約受け付け終了翌日の10月8日から15日までに申し出があれば、手数料を引いて返金することにしました。
 
  実施期間である2020年4月~12月は、現在の高校2年生にとっては高校3年生の期間です。学校行事や部活動と試験日程が重なる場合もあるなど、高校生活への悪影響や試験準備の困難は必至です。自分が志望する大学がどの英語民間試験を活用するかが未定であり、かつ実施日や試験会場との関係で実際に受けられるかどうか分からない状況で、予約金を支払わなければならなくなってしまっている受験生の現状は、「不安」から「混乱」の段階に入っていると言えるでしょう。英検の予約金返金をめぐる問題は、その混乱ぶりをよく示しています。
 
  教育現場や受験生に混乱をもたらす深刻な事態に至った以上、新共通テストの2020年度からの実施は見送るべきです。
 
中止と再検討を
 
  この問題を憂える関係者が集まり、10月13日の午後、「新共通テストの2020年度からの実施をとめよう!10・13緊急シンポジウム」が、東京大学経済学研究科棟第1教室で開催されます。ひとりでも多くの方の参加を願っています。
 
 検討が不十分な入試制度を見切り発車して被害を受けるのは、何よりも高校2年生をはじめとする受験生です。制度設計の不備が受験生に悪影響を与えることは、絶対に避けなければなりません。現時点で可能な最良の対策は、新共通テストを2020年度から実施するのをやめ、ここまで出されてきた課題を専門家や市民、受験生当事者の声を集めながら再検討することです。 
 

緊急シンポジウムのお知らせ
 
「新共通テストの2020年度からの実施をとめよう! 10・13 緊急シンポジウム」
 
 
2020年度から実施予定の大学入学共通テスト(以下:新共通テストと略)が大きな問題となっています。新たに導入される英語民間試験については、経済的負担の増大、地域格差による受験格差の不公平、複数試験の成績を比較することの困難性などが指摘されています。国語と数学の記述式問題の導入についても、採点の公平性や公正さへの疑問、自己採点が困難なために出願大学を適正に選べない点などが問題視されています。
 これらの問題に加えて、2020年度からの実施が近づいているにもかかわらず、当事者である受験生に正確な情報提供が行われていない点が重大です。受験生に大きな影響が及ぶ変更がある際は、2年前には予告すると文部科学省自身が原則として定めています。ところが新共通テストまで約1年4ヶ月、英語民間試験まで約7ヶ月しかありません。すでにこの原則を大きく裏切っているのが現状です。試験を受ける現・高校2年生やその他の受験生、現場教員、保護者から不安の声が上がるのも当然でしょう。ここまで深刻な事態に至った以上、新共通テストの2020年度からの実施は見送るべきです。
 検討が不十分な入試制度を「見切り発車」して被害を受けるのは、何よりも高校2年生をはじめとする受験生です。それだけでなく大学教育のありようにも影響し、将来にも大きな禍根を残すこととなります。現時点で可能な最良の対策は、新共通テストの2020年度からの実施を見送り、これまで指摘されてきた問題点を冷静に再検討することだと考えます。
 2019年10月13日(日)に、新共通テストの2020年度からの実施見送りを求めて、東京大学経済学研究科棟第1教室で緊急シンポジウムを行います。一人でも多くの方のご参加をどうぞよろしくお願いいたします。
                                             
        
 
日時:2019年10月13日(日) 13時〜17時(開場12時30分)
会場:東京大学経済学研究科棟第1教室
呼びかけ人・登壇者:大内裕和、中村高康、吉田弘幸、紅野謙介、阿部公彦、ほか
主催:10・13緊急シンポジウム実行委員会
参加費:500円(学生・生徒は無料)
事前申し込み不要  
 
 
 
 

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著者略歴

  1. 大内裕和

    1967年、神奈川県生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程をへて、現在は中京大学国際教養学部教授。専門は教育学・教育社会学。奨学金問題対策全国会議共同代表。著書に『奨学金が日本を滅ぼす』(朝日新書)、『ブラックバイトに騙されるな!』(集英社クリエイティブ)など。

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