激動の朝鮮半島情勢をどう読みとくか――シンポ「朝鮮半島の核危機」報告
対話による解決を模索する
3月31日、早稲田大学国際会議場井深大記念ホールで、国際シンポジウム『朝鮮半島の核危機――対話による解決は可能か』が開催された。
昨年11月に行なわれた緊急シンポジウム『米朝核危機と日本――平和的解決を求めて』(小社など共催)は、北朝鮮の核実験と相次ぐミサイル発射、それに対する米国トランプ政権の威圧的発言と軍事的圧迫という危機的状況の中で開催された。
その後、平昌オリンピック・パラリンピックを契機に南北の対話が始まり、3月25日には中朝会談が実現、4月27日の南北首脳会談開催も決まり、5月までには米朝首脳会談も開催されるという劇的な展開を迎えている。
朝鮮半島の非核化をめぐっては、依然として問題が山積している。
今回のシンポジウムは、現在の情勢を考えるうえでキーとなる韓国の文在寅大統領の統一外交安保特別補佐官を務める文正仁氏を基調講演者として迎え、日韓の北朝鮮問題専門家ともに、「対話による核危機の解決」を多面的に議論し模索していく試みとして開催された。
日本外交はどうすべきか
文正仁氏による基調講演「戦争の危機から平和へ――文在寅政府の北朝鮮政策」では、緊迫する情勢のもとでも平和解決と対話を求めた文在寅政権の戦略が詳細に報告された。(基調講演の原稿は『世界』2018年5月号に掲載)
この基調講演を受け、後半はパネルディスカッション「南北・米朝首脳会談の展望と日本外交の問題」が行なわれた。
小此木政夫・慶応義塾大学名誉教授は、「抑止力」と「外交力」を使い分け、軍事的緊張から対話的外交へと劇的に転換した北朝鮮の外交政策を「計画的なもの」と分析。
南北会談、米朝会談が控える今の状況を「ニクソンが訪中し、南北が共同声明を出し、田中角栄が中国に飛んだ、1972年のような激動の時期に再び来ているのではないか」と述べ、日本もまたこの流れに無関係ではないことを示唆した。
韓国における北朝鮮研究の第一人者である金錬鐵・仁済大学教授は、金正恩委員長が韓国大統領府の鄭義溶・国家安保室長と会談した際に述べた「体制保証されるなら核保有の理由はない」「非核化は先代の遺訓である」という言葉に注目。
この言葉はそれぞれ1991年の朝鮮半島非核化共同宣言を採択した際に金日成が、六者協議が膠着状態にあった2005年に金正日が、それぞれ述べた言葉であること。それがその後の外交的転換のきっかけとなっていたことを指摘した。
「その後の中朝会談においても、『段階的』、『同時的』という言葉を金主席は使っている。つまり先に核放棄論があるのではなく、9・19共同声明(北朝鮮の核問題を話し合う6カ国協議、2005年)で合意をしたときのように、核放棄と体制保証を同時的に行なっていくということ。これは北朝鮮が依然として強調している原則といえる」(金氏)
激変する東アジアの情勢
共同通信客員論説委員でジャーナリストの平井久志氏は、「北朝鮮が経済成長と核開発の並進路線で行くならば、国際社会は非核化と平和体制構築の並進路線でいかねばならない。この困難な方程式を我々はきちんと解いていかなければならない時期にきている」と述べ、そのひとつの着地点として在韓米軍の問題を挙げた。
「北朝鮮が在韓米軍を認めるという路線を打ち出せば、この平和の方程式を解くことも不可能ではない」。
共同通信社外信部次長で、ソウル支局、ワシントン支局時代から朝鮮半島問題を追ってきた井上智太郎氏は、今回の米朝首脳会談の裏にあるアメリカ国内の政治事情について分析した。
3月の韓国の特使団の訪米時に、共和党候補劣勢のペンシルバニア州下院補選があったこと、同時期にトランプ大統領のスキャンダル記事が出る可能性があったこと、が、トランプ大統領が予想外に迅速に日朝首脳会談要請を受けた背景にある可能性を指摘した。
「米朝会談に関して実はアメリカはほとんど準備ができていないのではないか。その場合、南北会談や4月の安倍総理の訪米時に、どこまで『振り付け』ができるかが非常に重要になってくる。安易な妥協をしないように、かといって簡単に投げ出してしまわないように働きかけていくことが重要なのではないか」。
中国現代外交を専門とする早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授の青山瑠妙氏は、3月25日から28日に突然実現した中朝首脳会談の中国国内での評価について報告した。
「中国政府の過去の北朝鮮政策は核危機の段階に合わせて常に変化している。今回の中朝会談までは中国は非常に危機意識を持って朝鮮半島の動向を捉えていたが、会談実現で、国内の報道も、現在の朝鮮半島状況は『対話が主流』であるという表現に変化している。両国の関係はひとまず改善に向かったと言ってよい。今回の中朝の首脳会談の実現で、中国は朝鮮半島の核問題の蚊帳の外に置かれず、重要なプレイヤーという座を得、朝鮮半島への影響力を固持することができたことは、中国の国益に置いて重要という見方です」(青山氏)
国内政治のスケープゴートに利用するな
その後の質疑応答では観客席から多くの問いが寄せられ、活発な議論が途切れることなく続いた。最後に文正仁氏が議論を総括して、次のように述べた。
「朝鮮半島の非核化の問題を、各国の国内政治に利用するためのスケープゴートにするべきではない。北朝鮮が述べてきた『非核化の意思』を、今後の南北会談できちんと明文化させることが重要です。日本の河野太郎外相は『北朝鮮との国交断絶』を各国に呼びかけたそうですが、そうすればするほど、北朝鮮は対外的に多くの外交活動をしようとするでしょう。むしろ北朝鮮を『普通の国』として扱うことが重要です。そうすれば、北朝鮮はそのように行動せざるを得なくなります。平昌オリンピック以降、私たちは北朝鮮を普通の国として扱い、そのことによって多くの批判を受けました。しかし結果はどうだったか。我々は予想を超える合意を得ることができました。お互いに相手を認めるか認めないかによって国と国との関係というのは大きく違ってくる。6カ国会議の参加国は朝鮮半島の非核化を望んでいますし、アメリカの保守的層も、朝鮮半島の平和安定を望んでいると思います。このような共通の分母があれば、それを国際社会の中心として、朝鮮半島の非核化と平和安定をもたらすことができるのではないでしょうか」。
3月31日、早稲田大学国際会議場井深大記念ホールで、国際シンポジウム『朝鮮半島の核危機――対話による解決は可能か』が開催された。
昨年11月に行なわれた緊急シンポジウム『米朝核危機と日本――平和的解決を求めて』(小社など共催)は、北朝鮮の核実験と相次ぐミサイル発射、それに対する米国トランプ政権の威圧的発言と軍事的圧迫という危機的状況の中で開催された。
その後、平昌オリンピック・パラリンピックを契機に南北の対話が始まり、3月25日には中朝会談が実現、4月27日の南北首脳会談開催も決まり、5月までには米朝首脳会談も開催されるという劇的な展開を迎えている。
朝鮮半島の非核化をめぐっては、依然として問題が山積している。
今回のシンポジウムは、現在の情勢を考えるうえでキーとなる韓国の文在寅大統領の統一外交安保特別補佐官を務める文正仁氏を基調講演者として迎え、日韓の北朝鮮問題専門家ともに、「対話による核危機の解決」を多面的に議論し模索していく試みとして開催された。
日本外交はどうすべきか
文正仁氏による基調講演「戦争の危機から平和へ――文在寅政府の北朝鮮政策」では、緊迫する情勢のもとでも平和解決と対話を求めた文在寅政権の戦略が詳細に報告された。(基調講演の原稿は『世界』2018年5月号に掲載)
この基調講演を受け、後半はパネルディスカッション「南北・米朝首脳会談の展望と日本外交の問題」が行なわれた。
小此木政夫・慶応義塾大学名誉教授は、「抑止力」と「外交力」を使い分け、軍事的緊張から対話的外交へと劇的に転換した北朝鮮の外交政策を「計画的なもの」と分析。
南北会談、米朝会談が控える今の状況を「ニクソンが訪中し、南北が共同声明を出し、田中角栄が中国に飛んだ、1972年のような激動の時期に再び来ているのではないか」と述べ、日本もまたこの流れに無関係ではないことを示唆した。
韓国における北朝鮮研究の第一人者である金錬鐵・仁済大学教授は、金正恩委員長が韓国大統領府の鄭義溶・国家安保室長と会談した際に述べた「体制保証されるなら核保有の理由はない」「非核化は先代の遺訓である」という言葉に注目。
この言葉はそれぞれ1991年の朝鮮半島非核化共同宣言を採択した際に金日成が、六者協議が膠着状態にあった2005年に金正日が、それぞれ述べた言葉であること。それがその後の外交的転換のきっかけとなっていたことを指摘した。
「その後の中朝会談においても、『段階的』、『同時的』という言葉を金主席は使っている。つまり先に核放棄論があるのではなく、9・19共同声明(北朝鮮の核問題を話し合う6カ国協議、2005年)で合意をしたときのように、核放棄と体制保証を同時的に行なっていくということ。これは北朝鮮が依然として強調している原則といえる」(金氏)
激変する東アジアの情勢
共同通信客員論説委員でジャーナリストの平井久志氏は、「北朝鮮が経済成長と核開発の並進路線で行くならば、国際社会は非核化と平和体制構築の並進路線でいかねばならない。この困難な方程式を我々はきちんと解いていかなければならない時期にきている」と述べ、そのひとつの着地点として在韓米軍の問題を挙げた。
「北朝鮮が在韓米軍を認めるという路線を打ち出せば、この平和の方程式を解くことも不可能ではない」。
共同通信社外信部次長で、ソウル支局、ワシントン支局時代から朝鮮半島問題を追ってきた井上智太郎氏は、今回の米朝首脳会談の裏にあるアメリカ国内の政治事情について分析した。
3月の韓国の特使団の訪米時に、共和党候補劣勢のペンシルバニア州下院補選があったこと、同時期にトランプ大統領のスキャンダル記事が出る可能性があったこと、が、トランプ大統領が予想外に迅速に日朝首脳会談要請を受けた背景にある可能性を指摘した。
「米朝会談に関して実はアメリカはほとんど準備ができていないのではないか。その場合、南北会談や4月の安倍総理の訪米時に、どこまで『振り付け』ができるかが非常に重要になってくる。安易な妥協をしないように、かといって簡単に投げ出してしまわないように働きかけていくことが重要なのではないか」。
中国現代外交を専門とする早稲田大学大学院アジア太平洋研究科教授の青山瑠妙氏は、3月25日から28日に突然実現した中朝首脳会談の中国国内での評価について報告した。
「中国政府の過去の北朝鮮政策は核危機の段階に合わせて常に変化している。今回の中朝会談までは中国は非常に危機意識を持って朝鮮半島の動向を捉えていたが、会談実現で、国内の報道も、現在の朝鮮半島状況は『対話が主流』であるという表現に変化している。両国の関係はひとまず改善に向かったと言ってよい。今回の中朝の首脳会談の実現で、中国は朝鮮半島の核問題の蚊帳の外に置かれず、重要なプレイヤーという座を得、朝鮮半島への影響力を固持することができたことは、中国の国益に置いて重要という見方です」(青山氏)
国内政治のスケープゴートに利用するな
その後の質疑応答では観客席から多くの問いが寄せられ、活発な議論が途切れることなく続いた。最後に文正仁氏が議論を総括して、次のように述べた。
「朝鮮半島の非核化の問題を、各国の国内政治に利用するためのスケープゴートにするべきではない。北朝鮮が述べてきた『非核化の意思』を、今後の南北会談できちんと明文化させることが重要です。日本の河野太郎外相は『北朝鮮との国交断絶』を各国に呼びかけたそうですが、そうすればするほど、北朝鮮は対外的に多くの外交活動をしようとするでしょう。むしろ北朝鮮を『普通の国』として扱うことが重要です。そうすれば、北朝鮮はそのように行動せざるを得なくなります。平昌オリンピック以降、私たちは北朝鮮を普通の国として扱い、そのことによって多くの批判を受けました。しかし結果はどうだったか。我々は予想を超える合意を得ることができました。お互いに相手を認めるか認めないかによって国と国との関係というのは大きく違ってくる。6カ国会議の参加国は朝鮮半島の非核化を望んでいますし、アメリカの保守的層も、朝鮮半島の平和安定を望んでいると思います。このような共通の分母があれば、それを国際社会の中心として、朝鮮半島の非核化と平和安定をもたらすことができるのではないでしょうか」。