「私が爆弾を作ったのではない。私は爆弾が存在することを示しただけだ」――世界をひっくり返したデータとは
心理学者のミハル・コシンスキは、ソーシャルメディア(SNS)の履歴を基にして人を詳細に解析する方法を開発した。
ドナルド・トランプの勝利は、類似の手法によって後押しされたのだろうか?
チューリッヒの『ダス・マガジン』誌の2人のジャーナリストが、データ収集を行なった(本稿は、2016年12月3日にスイスの『ダス・マガジン』誌に掲載された記事の改訂版である)。
“The Data That Turned the World Upside Down”, by Hannes Grassegger and Mikael Krogerus, “Motherboard”, January 28, 2017
©2017 Hannes Grassegger and Mikael Krogerus
2016年11月9日午前8時30分、ミハル・コシンスキは、チューリッヒのスンネフス・ホテルの一室で目を覚ました。コシンスキは34歳の研究者で、ビッグデータの危険性及びデジタル革命についてスイス連邦工科大学で講演するために同地に来ていたものだ。
コシンスキは、このテーマで世界中で講演を行なっている。心理学の一分野でデータ駆使という特徴をもつ「計量心理学(psychometrics)」では、超一流の専門家だ。
その朝、テレビをつけた時、コシンスキは大事件が勃発したことを理解した。一流の統計学専門家によるすべての予想を覆し、ドナルド・J・トランプがアメリカ合州国の大統領に当選したのだった。
コシンスキは、トランプの勝利祝いと各州の投票結果のニュースをひたすら見続けた。この選挙結果にはひょっとしたら自分の研究の影響があるのではないかと虫が知らせたのだ。そして長い時間がたった後、深く息をついてテレビを消した。
その同じ日、ロンドンを本拠とする当時はまだ無名だった英国の会社が、アレクサンダー・ジェームズ・アッシュバーナー・ニックスの署名で次の記者発表コメントを出した。
「弊社開発の革命的な、データを駆使したコミュニケーションへのアプローチが、トランプ新大統領の驚くべき勝利にこれほど不可欠な役割を果たしたことを、大変うれしく思います」
ニックスは、41歳の英国人で、ケンブリッジ・アナリティカ社の最高経営責任者だ。人前に顔を見せる時は常に、オーダーメイドのスーツに身を包み、デザイナーズ眼鏡をかけ、ウェーブのかかった金髪をきれいに額から後ろに撫でつけている。
ニックスの会社が不可欠な存在だったのは、トランプのオンライン上のキャンペーンだけではない。英国のEU離脱キャンペーンでもそうだった。
この3人、すなわち思索にふけるコシンスキ、丁寧に髪を撫でつけたニックス、笑いが止まらないトランプ、の中で、一人はデジタル革命を可能にし、一人は実行し、一人はその恩恵を受けたのだった。
ビッグデータはどれほど危険か?
この5年間、どこか別の惑星にでも住んでいた人でない限り、ビッグデータという用語をご存じのことだろう。
ビッグデータとは、その本質として、人のあらゆる行動は、オンラインであってもそうでなくても、デジタルに痕跡が残ることを意味する。クレジットカードでのすべての購買、グーグルの検索窓に入力したすべての語、スマートフォンがポケットに入っている時ならばその人のすべての動き、すべての「いいね」、が記録される。とりわけ、すべての「いいね」だ。
長い間、こういったデータが潜在的にどういう使い手があるのかはっきりしていなかった。例外は、強いてあげるなら、「高血圧 下げる」でグーグル検索をかけたすぐ後に、「高血圧治療薬」の宣伝が出てくるかもしれないことくらいか<訳注1>。
11月9日、おそらくずっと多様なことが可能、ということが明らかになった。トランプのオンライン上の選挙キャンペーンの背後にいた会社(その同じ会社が、英国EU離脱派のLeave.EUによるキャンペーンの最初期に活動した)が、ビッグデータ会社のケンブリッジ・アナリティカだ。
本記事は、なぜトランプが選挙に勝ったかについて最終的な回答を与えるものではない。トランプの意外な勝利には、何千もの異なる理由がある。
本稿で焦点を当てるのは、細かいながらも決定的に重要な細部、ビッグデータの使用についてだ。
大統領選の結果を理解するために、そして政治的コミュニケーションが将来どう働く可能性があるかを理解するために、2014年、コシンスキが当時在籍していたケンブリッジ大学の計量心理学センターで起こった奇妙な事例から始めよう。
計量心理学は、心理学的特性、たとえばパーソナリティ[心理学的人格。より正確には、気質、性格、能力の三要素の複合体を指す。以下、本稿ではこの語をその意味で用いる]を測定することに特徴がある。
1980年代、二つの心理学者グループが、人間を「特性五因子」と呼ばれる次の五つの人格特性で査定しようとするモデルを開発した。
「経験への開放性」(新しい経験に対してどれほど許容度があるか[好奇心の強さ、に近い])、「誠実性」(どれほど[道徳的に]完璧主義者か)、「外向性」(どれほど社交性があるか)、「協調性」(どれほど思慮深く協調的か)、「神経症傾向」(傷つきやすいか)、の五つである。
この五つの次元([英語の用語を上の順番で]頭文字を取って、OCEANとも呼ばれる)を使うことで、目の前の人がどういう人かを比較的よい精度で推定することができる。その人が欲していること、恐れていること、どういう行動をとる傾向があるか、といった推定だ。
「特性五因子」は計量心理学の標準手法となった。
しかし、長らく、この手法の問題点は、どうやってデータを採集するかにあった。複雑でかつ極めて個人的なアンケートを取る必要があったからだ。
そこでインターネットが登場した。そしてフェイスブック、コシンスキと続いた。
ワルシャワで学生だった2008年、ミハル・コシンスキに転機が訪れた。
その分野では世界最古の研究機関の一つであるケンブリッジ大学計量心理学センターの大学院博士課程へ進学したのだ。コシンスキは、同じく大学院生の先輩デイヴィッド・スティルウェル(現在はケンブリッジ大学内のジャッジ・ビジネス校の講師になっている)のチームに加わった。
それは、スティルウェルが、当時まだ現在のような巨人になっていなかったフェイスブックにおいて、フェイスブック用の小さなアプリをリリースした約1年後のことだ。
彼らの開発したアプリ「マイ・パーソナリティ」は、ユーザーに異なった計量心理学的な質問を呈示するものだった。
その質問には、特性五因子性格テストの一部も含まれる(「容易にパニックに陥ってしまう」「人に反論する」など)。
アンケートに答えたユーザーは、特性五因子の値も含めた「性格傾向診断」結果を受け取り、自分のフェイスブックのプロフィール情報を研究者とシェアできる選択もできるようになっている。
コシンスキは、当初、大学の友人数十人がアンケートに答えてくれればよい、と期待していた。
しかし、それほど時をおかずして、何百、何千、ついには何百万もの人々が、個人の最奥の内心をつまびらかにしたのだった。
こうして、思いもかけなかったことながら、2人の大学院生は、フェイスブックのプロフィール情報に基づいた計量心理学的点数を積み重ねることで、史上最大のデータベースを所有することになった。
コシンスキと共同研究者が以降数年に亘って開発した手法は、実はわりと単純なものだった。
まず、被験者に、オンライン上の質問という形でアンケートを呈示する。返ってきた反応から、被験者の特性五因子の値を計算する。コシンスキの研究チームは、その結果を被験者のネット上のあらゆるデータと比較する。
たとえば、何に「いいね」したか、何をフェイスブック上でシェア<訳注2>したか、そして被験者の記載する性別、年齢、住んでいる場所などだ。
これらにより研究者は、得たデータ点から相関関係を導き出すことができる。
オンライン上での些細な行動から、驚くほど信頼性の高い推定が可能になる。
たとえば、化粧品ブランドのMACに「いいね」している男性は同性愛者である確率が若干高い、異性愛者であることを示す最高の指数の一つは[米国のヒップホップグループの]ウータン・クランに「いいね」していることだ、といった具合だ。
レディ・ガガのフォロワーはきわめて高確率で社交的であり、哲学に「いいね」している人は内向的な傾向がある。
こういった情報は、その各々だけでは信頼できる予測をするには[証拠として]弱すぎるが、数十、数百、数千のデータ点を組み合わせると、予測結果の信頼性は非常に高くなる。
コシンスキと共同研究者は、自らのモデルに改善に改善を重ねた。2012年、コシンスキは研究成果を発表した。
フェイスブック上のページの各ユーザーの平均「いいね」数68個に基づいて、ユーザーの肌の色(95%の正確度)、性的嗜好(正確度88%)、米国人の場合は民主党または共和党のどちらを支持しているか(85%)を推定することが可能、というものだ。
しかもそれだけに止まらない。知能指数、所属する宗教、それに加えてアルコール、煙草、薬物の使用、といったものすべてが決定可能だ。
データに基づいて、その人の両親が離婚したかどうかを推定することさえ可能なのだった。
コシンスキらのモデルの長所は、被験者の限られた答えに基づいて、被験者が陽に述べない個人的特徴や背景を正確に予測できることにあった。
コシンスキは、それに満足することなく、モデルの改良を続けた。
そのうちコシンスキは、人のフェイスブックの「いいね」10個だけに基づいて、その人の人となりを、その人の平均的な同僚よりも正確に言い当てることができるようになった。
「いいね」70個もあれば、その人の友人がその人について知っていることにも勝る。「いいね」150個あればその人の両親にも勝り、「いいね」300個あればその人の伴侶の知識をも上回る。
それ以上の数の「いいね」になれば、その人自身が自分について知っていると思っていることさえ上回ることができる。
これらの発見結果を発表したその日、コシンスキは2本の電話を受け取った。
法廷で訴えるという脅しと、職のオファーだった。
いずれもフェイスブック社からだった。
政治利用への悪い予感
数週間もしないうちに、フェイスブックの「いいね」はデフォルト設定で非共有になった。
それ以前のデフォルト設定では、あなたの「いいね」はインターネット上の誰もが閲覧可能だった。
しかし、データ収集する人にとって、これは何の障壁にもならない。
コシンスキがフェイスブックのユーザーに常に同意を求めていたのに対し、今の同種の多くのアプリやネット上の質問は、性格テストを行う前提条件としてユーザーに非公開データへのアクセスに同意することを求めている(自分のフェイスブックの「いいね」に基づいた判断がどのようになるかを知りたい人は、コシンスキのウェブサイトにて調べられる。そしてその結果を、古典的なOCEAN[特性五因子]試験、たとえばケンブリッジ大学計量心理学センターの結果と比較するとよい)。
しかも、それはフェイスブックの「いいね」には止まらない。
コシンスキと共同研究者とは、今や、フェイスブック上で何枚のプロフィール画像を持っているか、あるいは何人のフェイスブック上での友人がいるか(外向性のよい指標)、という情報だけからでも、その人の特性五因子の値を導くことができるようになった。
しかも、私たちは、オフラインの時でさえ、自分についての何らかの情報を垂れ流している。
たとえば、携帯電話に組み込まれた運動センサーは、人がどれほど速く移動し、どれほど遠くまで旅するか(情緒不安定なことと相関)を明らかにする。
私たちが使うスマートフォンは、巨大な心理学的アンケートで、私たちは意識していようがいまいが常にその質問に答え続けているようなものだ、とコシンスキは結論づけた。
とりわけ鍵になる事実として、この結果は逆方向にも働く。
心理学的プロフィールがあなたのデータから導き出されるだけでなく、その逆に、あなたのデータが特定の心理学的傾向に一致するかどうかを検索することもできる。
たとえば、心配性の父親全員、内向的で怒っている人々全員、あるいはひょっとしたら米国の民主党に投票するかどうか迷っている人々全員など、どうだろう?
原理的に、コシンスキが発明したことは、人間検索エンジンのようなものだ。
コシンスキは自らの研究の潜在的可能性だけでなく、その本質的に孕む危険を認識するようになった。
コシンスキにとっては常に、インターネットは天からの贈り物に思えるものだった。だからそれに対して何かをお返ししたい、シェアしたい、と本当に思ってきた。
データは複製可能だ。なら、皆がそこから何らかの利益を得ていいのではないか?
それは物理的な壁の限界を乗り越えることが可能になった新時代を生きる彼の世代に共有される精神だった。
しかし、とコシンスキは考えた。
もし誰かが、人々を操るために自分の開発した人間検索エンジンを悪用したらどうなるだろうか?
コシンスキは、自身のほとんどの科学的成果発表に際し、警告のメッセージを加えるようになった。
曰く、この手法は「個人の幸せ、自由、ひょっとしたら人生にとって脅威となる可能性がある」と。
しかし、誰もコシンスキが意図したことを理解していないようだった。
その同じ頃の2014年はじめ、心理学部の若き准教授のアレクサンドル・コーガンがコシンスキにコンタクトを取ってきた。
コーガンは、コシンスキの手法に興味があって「マイ・パーソナリティ」のデータベースにアクセスしたい、という会社の代理として問い合わせたのだという。
コーガンは秘密保持の契約に縛られていて、その目的が何かを説明することは許されていなかった。
当初はコシンスキと共同研究者らはその提案に惹かれた。研究所にとって潤沢な予算提供が約束されることになるからだ。
しかし、コシンスキは躊躇した。
最終的に、コシンスキはコーガンがその会社の名前を出したことを思い出した。SCLまたはストラテジック・コミュニケーション・ラボラトリーズ[仮訳:戦略的コミュニケーション研究所]だった。
グーグル検索をかけて出てきた会社のウェブサイトにはこうあった、「第一級の選挙戦略代理店」。SCLは、心理学的モデルに基づいた広報戦略を提供する。同社の売りの一つは「選挙に影響を与える」。
選挙に影響を与える、だと? 不安感に苛まれたコシンスキは次々にページをクリックしていった。
一体、どんな会社なのだろう? 彼らは一体何を計画しているのだろう?
その時コシンスキは与り知らなかったことだが、SCLはいくつかのグループ企業の親会社だ。
具体的に誰がSCLを所有しているか、またその多岐にわたる子会社の詳細は、はっきりしない。
英国会社登記所、パナマ文書、デラウェア州会社登記所[米国内で会社登録における規制が緩いことで有名な州]などで見られるような入り組んだ企業構造のおかげだ。
SCL系列企業のいくつかはウクライナからナイジェリアまでの選挙に関わり、あるいは抵抗勢力と対立するネパールの独裁者を助け、一方で別の部門はNATO(北大西洋条約機構)のために東ヨーロッパとアフガニスタンで市民に影響を与える手法を開発した。
2013年には米国の大統領選挙に参加するために、新しい子会社ケンブリッジ・アナリティカを設立した。
コシンスキはそれらの何も知らなかったが、悪い予感がしていた。「これら全体が腐臭を放っているように感じ始めた」と述懐する。
さらに調査を進める中で、コシンスキは、アレクサンドル・コーガンがSCLと商取引を行う会社を秘密裏に設立していたことを突き止めた。
2015年12月の『ガーディアン』紙の報告および『ダス・マガジン』が入手した会社の内部資料によれば、SCLはコシンスキの手法をコーガンから学んだことが明らかになった。
コーガンの会社はひょっとしたらフェイスブックの「いいね」を用いた特性五因子測定ツールを真似たものを作って件の選挙に影響を与えるという企業に売ったのではないか、とコシンスキは疑うようになった。
コシンスキは直ちにコーガンとの接触を絶って、センター長に話を伝え、その結果、大学内で複雑に対立する利益が衝突することになった。
同センターは、評判を落とすのではないかと心配を募らせた。
その後、アレクサンドル・コーガンはシンガポールに移住し、結婚して、姓をスペクトル(博士)と変更した。ミハル・コシンスキは博士号を取得し、スタンフォード大学でポストを得て、米国に移住した。
ミスター・ブレクジット
その後、1年間ほどは何事もなく過ぎていった。
2015年11月、英国のEU離脱の2つのキャンペーンの中で先鋭的なほうであり、英国独立党の当時の党首ナイジェル・ファラージの支持を受けた「Leave.EU」が、あるビッグデータ専門会社にオンラインでのキャンペーンを委託したと発表した。
ケンブリッジ・アナリティカだった。
同社戦略の核になる強みは、人々のデジタル的痕跡からOCEANモデルによってその人のパーソナリティを測定することによる新進的な政治広告活動、なかでもマイクロターゲティング<訳注3>と謳っている。
コシンスキは、彼が果たした役割について問い合わせる電子メールを受け取るようになった。
ケンブリッジ、パーソナリティ、解析、といった単語を聞いた多くの人がコシンスキを思い浮かべたのだ。
コシンスキにとっては、その会社の名前は初耳だった。
同社によれば、同社の名前は、最初の複数の従業員がケンブリッジ大学の研究者だったことに由来する、としている。
恐ろしい予感がして、コシンスキは同社のウェブサイトを見た。
自分の開発した手法が、政治的目的のために大規模に使われることになっているのだろうか?
英国のEU離脱が国民投票の結果として決まった後、コシンスキは友人や知り合いからの便りを受け取ることになる。
「あなたが何をしでかしたか見てごらんよ」と。
コシンスキはどこに行っても、その会社は自分と何の関わりもないことを説明しなくてはならなかった(EU離脱キャンペーンにおいてケンブリッジ・アナリティカがどれほど深く関わったかははっきりしない。ケンブリッジ・アナリティカは、そのような質問には回答しない)。
その後2、3カ月は比較的静かに時が過ぎていった。
そして2016年9月19日、米国の大統領選挙の1カ月あまり前、ニューヨークのグランド・ハイアット・ホテルの濃青色のホールに、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバルの「バッド・ムーン・ライジング」のギターの音色が響きわたった。
同所で開催されたコンコルディア・サミットは、世界経済フォーラムの小型版のようなものだ。
政治経済の決断に責任を持つリーダーが世界中から招待され、たとえばスイス連邦大統領ヨハン・シュナイダー=アマンもその中の一人だった。
「ケンブリッジ・アナリティカの最高経営責任者アレクサンダー・ニックスです。拍手でお出迎えください」
うぐいす嬢のよどみないアナウンスが流れる。ダークスーツに身を包んだスリムな男がステージに歩み立った。場のざわめきが消えていく。
参加者の多くが、彼がトランプの新しいデジタル戦略を担う男だと知っていた(同発表の映像がユーチューブに投稿されている。以下の動画参照)。
それに先立つこと数週間、米大統領候補ドナルド・トランプは少々謎めいたツイートをしていた。
「そのうち皆が私のことをミスター・ブレクジットと呼ぶようになるだろう」。
実際、政治ウォッチャーはトランプの政策方針と右派の英国EU離脱活動とが大いに似通っていることに気づいていた。
しかし、トランプがその頃ケンブリッジ・アナリティカという広告会社を雇ったこととの関連に気づいた人はほとんどいなかった。
この時点までは、トランプのデジタル世界でのキャンペーンは、ほぼ一人の手によって統轄されていた。
当座の宣伝を任された企業家で、トランプのためのごく基本的な最初のウェブサイトを1500ドルで立ち上げて失敗に終わった人物、ブラッド・パースケイルだ。
70歳のトランプはデジタル界には疎い。事務所のトランプの机には、コンピューターひとつない。トランプの秘書は、トランプは電子メールを使わない、と打ち明けたこともある。
同秘書がトランプにスマートフォンを持つよう働きかけた結果、今ではトランプはそれを使ってひっきりなしにツイートを送っている。
それに対して、ヒラリー・クリントンは、初の「ソーシャル・メディア大統領」バラク・オバマの伝統に大いに頼っている。
クリントンは民主党のアドレス帳を持ち、ブルーラブズ社のビッグデータ解析で最先端をいく専門家と協働し、グーグルとドリームワークスの支援を受けている。
2016年6月にトランプがケンブリッジ・アナリティカを雇ったと発表された時、ワシントンの高官たちはただ鼻で笑ったものだった。
オーダーメイドのスーツに身を包んだ、この国も人も理解していないような、外国の輩だって? 本気かい?
人口統計学から計量心理学へ
「選挙戦においてビッグデータと計量心理学の果たす力について、今日皆様にお話しできることを光栄に思います」
ケンブリッジ・アナリティカのロゴ(ネットワークの交点が地図のようになって脳をあしらっているもの)が、アレクサンダー・ニックスの後ろに現れる。
「わずか18カ月前、クルーズ上院議員はあまり人気の芳しくない候補でした」
金髪の男が英国上流階級特有の訛りで説明を始める。
それはアメリカ人をなんとはなしに不快にさせる訛りで、標準ドイツ語の発音を聞いたスイス人が落ち着きを失うのと同じ感覚だ。
「彼の名前を聞いたことがある人は、人口の40%未満でした」
スライドが続く。ケンブリッジ・アナリティカは、米国の大統領関係選挙キャンペーンにその2年近く前から関わっていた。
最初は、共和党内の大統領選出馬候補のベン・カーソンとテッド・クルーズの、そして後にはトランプの、コンサルタントとしてだった。
主要な出資者は、秘密のベールに包まれた米国のソフトウェア関係の億万長者ロバート・マーサーだ。氏は、娘のレベッカとならんで、ケンブリッジ・アナリティカへの最大の投資者と伝えられる。
「ではクルーズ氏はどうやったのでしょう?」
ニックスは、今までは選挙キャンペーンは、人口統計に基づいて組まれていた、と説明する。
「大変馬鹿げた考え方です。すべての女性は、その性別ゆえに同じメッセージを受け取るべきだ、あるいはすべてのアフリカ系アメリカ人はその人種ゆえに、という考え方です」
ニックスの主張は、他陣営が人口統計学に頼った選挙キャンペーンを張っているのに対し、ケンブリッジ・アナリティカは計量心理学を使う、というものだ。
その主張自体は正しいのかもしれないが、ケンブリッジ・アナリティカがクルーズの選挙キャンペーンでどれほど重要な役割を果たしたかについては疑いの余地がないとは言えない。
2015年12月、クルーズ陣営は、同陣営の急成長による成功は、データ解析において心理学的手法を使ったことによる、とコメントしている。
『アドバタイジング・エイジ』[広報広告とメディアの分野を専門とする米国の老舗ニュースメディア]の報道によれば、ケンブリッジ・アナリティカから配属されたスタッフは「追加の車輪のよう」だったが、同社の売りである投票者のデータをモデル化する仕事は確かに「素晴らしかった」とその政治系クライアントの一人が言ったと伝えた。
クルーズ陣営は、同氏が5月に大統領予備選から手を引く前に、ケンブリッジ・アナリティカに少なくとも580万ドルを支払った。
結果的にクルーズが勝利したアイオワ州の共和党の大統領候補を決定するための党員集会の選挙活動にて、投票者を同定する作業を支援したことに対する謝礼だ。
ニックスはマウスをクリックして次のスライドに進める。
5人の顔が、それぞれのパーソナリティ情報と共に表示される。特性五因子またはOCEANモデルだ。
「ケンブリッジ・アナリティカでは、アメリカ合州国のすべての成人一人ひとりの人格を予測するモデルを形成できます」
聴衆は心を奪われる。
ニックスは、ケンブリッジ・アナリティカのマーケティング戦略の成功は、三つの要素の組み合わせ、すなわち、OCEANモデルを使った行動科学、ビッグデータ解析、ターゲティング広告の組み合わせとする。
ターゲティング広告(または追跡型広告)とは、各個人を対象に、各々の消費者のパーソナリティに応じて、可能な限り正確にオーダーメイドの広告を行うことを指す。
ニックスは、気取ることなく、同社がどのようにそれを実現するかを説明する。
まず、ケンブリッジ・アナリティカは、幅広い相手から個人情報を購入する。たとえば土地登記書、自動車関連データ、購買データ、店のポイントサービス、会員カード、どの雑誌を読むか、どの教会に行くか、などだ。
ニックスは、アクシオムやエクスペリアンといった国際データ業者のロゴを見せる。
米国では、ほぼすべての個人データが売られているものだ。たとえば、もしユダヤ人の女性がどこに住んでいるかを知りたければ、そういった情報を単に買うことができ、電話番号までついてくる。
ケンブリッジ・アナリティカはそれらの情報すべてに共和党の有権者名簿とオンラインで収集したデータを統合し、特性五因子個人パーソナリティ情報を計算する。
ことここにいたり、デジタル痕跡が、恐れ、欲しがり、好奇心のある、そして住所を持つ実際の人々に化けることになる。
この手法は、ミハル・コシンスキがかつて開発したものとよく似ている。
ニックスによれば、ケンブリッジ・アナリティカは、「SNS上でのサーベイ」とフェイスブックのデータも使うという。
そして、同社は、まさにコシンスキが警告した通りのことを実行している。
「我が社は、アメリカ合州国のすべての成人のパーソナリティ情報を割り出しました。2億2000万人です」
とニックスは誇る。
ニックスはあるスクリーンショットを見せる。
「これは、クルーズ選挙キャンペーンにおいて私どもが用意したデータのコントロールパネルです」
デジタルのコントロールパネルが現れる。左側には計測図が見える。右側にはアイオワの地図がある。
クルーズが共和党内の予備選挙において、意外にも大量得票して勝利した地だ。
地図上には、何十万もの小さな赤と青の点が打たれている。
ニックスは、選択の幅を狭める。「共和党員」を選ぶと、青の点が消える[青は民主党の象徴の色]。「投票先について心をまだ決めかねている」でさらに点が消える。「男性」……というように続いていく。
最終的に残ったのは、一人の名前、そしてその人の年齢、住所、興味、パーソナリティ、および政治的思想だ。
ここにいたり、ケンブリッジ・アナリティカはどのようにその人を狙い撃ちして適切な政治的メッセージを届けようか?
ニックスは、計量心理学に基づいて分類された有権者それぞれにどのように違ったやり方でアプローチするか、米国憲法修正第2条に定められた銃所有の権利を例に示す。
「大いに心配性でまた良心的な人に対しては、家宅侵入盗賊の脅威と銃の保険制度について」
左側の画像には、窓を叩き割って侵入しようとする強盗の手が映される。
一方、右側には、男と子供がそれぞれ銃を片手に夕焼けの野原で佇んでいる様子、つまり明らかにアヒル猟の様子が示される。
「逆に、内向的で穏やかな人に対しては、このように。伝統、習慣、そして家族を大切にする人々ですから」
クリントンへの潜在的投票者を投票所に行かせないように仕向ける方法
トランプの首尾一貫性の著しい欠如、よく批判される気まぐれ、そしてその結果として矛盾する発言の数々が、思いもかけず彼の大いなる強みとなることになった。
一人ひとりの有権者にそれぞれ異なるメッセージを届けるのだ。
トランプは、聴衆の反応に応じて、完全なるご都合主義アルゴリズムにしたがって行動している、と看破したのは数学者のキャシー・オゥ=ニールで2016年8月のことだった。
「トランプが発する実質上すべてのメッセージはデータに基づいている」
とアレクサンダー・ニックスは述懐する。
トランプとクリントンの第3回大統領候補討論会の日、トランプのチームは、トランプの議論のために17万5000通りの広告を用意して、最善のものを見つけ出すべく、とりわけフェイスブック上にてそれらを試験した。
メッセージは、受信者一人ひとりに合わせて最適化されたもので、その多くはごく些細な点で異なっていたに過ぎない。たとえば異なった見出し、色、図注、写真をつけるか映像をつけるか、など。
私たちによるインタビューの中でニックスは、その微調整は、最小のグループにまで及んだと説明する。
「村落、アパートの区画ごとに調整できる。個人レベルでさえ可能だ」
たとえば、フロリダ州マイアミのリトル・ハイチ地区では、トランプの選挙チームは、ハイチの地震の後のクリントン財団による失態のニュースを住民に流し、住民がヒラリー・クリントンに投票しないように仕向けた。
これは、トランプチームの目標の一つだった。
すなわち、潜在的にクリントンに投票しそうな人々(たとえば浮動票的な左派系の投票者、アフリカ系アメリカ人、若い女性などが含まれる)が投票所に足を運ばないよう仕向けることで、ブルームバーグ[米国本拠の国際メディア]にトランプ陣営の高官が選挙の数週間前に語った言葉を借りれば、彼らの投票を「抑える」ことだ。
これらの「ダークポスト」(フェイスブック使用時に表示されるニュースの形をとった広告形態で、ある特定の条件を満たすユーザーのタイムラインにのみ登場するものを指す)の例として、たとえば、アフリカ系アメリカ人に向けては、ヒラリー・クリントンが黒人を略奪者呼ばわりしているビデオを含める、などがある。
ニックスはコンコルディア・サミットでの講演の締めくくりに、伝統的な一括広告の時代は終わった、と宣言した。
「私の子供たちは、この不特定多数への一括広告という概念を理解することは決してあり得ないでしょう」
そして演台を後にする前にニックスは、クルーズが選挙戦を去った今、同社は残った大統領候補の一人を支援していると発表した。
トランプのデジタル部隊によっていったいどれほどの精度でアメリカ人が標的にされていたかは、今の段階では明らかになっていない。
なぜならば同部隊はテレビの主流番組よりもSNS上やデジタルテレビ放送での個人に的を絞ったメッセージの方に注力していたからだ。
そして、クリントン陣営が人口分布調査による推定に基づいて選挙戦をリードしていると判断していたその時、ブルームバーグのジャーナリストのサシャ・イッセンバーグは、トランプのデジタル・キャンペーン本部のあるサン・アントニオを訪問した時、第二本部が作られつつあることを知り、驚きとともに報告していた。
その中に組み込まれていたケンブリッジ・アナリティカのチームはわずか12人と聞くも、7月にはトランプから10万ドル、8月には25万ドル、そして9月には500万ドルを受け取った。
ニックスによれば、同社は全体で1500万ドル超を稼いだという(なお、同社は米国で設立されている。
米国では個人情報データを流すことに関する法律は欧州機構諸国よりも甘い。
欧州のプライバシーにかかる法律では、個人データを流すためにはデータに該当するユーザーが「オプトイン」[デフォルトで禁止ながら、ユーザーが選択すれば許容できる]する必要があるのに対し、米国の同種の法律では本人が「オプトアウト」[原則許容ながら、ユーザーが選択すれば禁止できる]しない限りデータを流すことが許される仕組みになっている)。
使われた手段は革新的だった。
2016年7月よりトランプの選挙陣営には一軒一軒の家の住民の政治的見解とパーソナリティ型とを同定できるアプリが配られた。
アプリ配給元は、英国のEU離脱キャンペーンが使ったのと同じ会社だ。
トランプ陣営のスタッフは、メッセージを届ける価値があるとアプリによってランク付けされた家だけ訪ねて呼び鈴を鳴らしたのだった。
選挙運動人は、訪問先の住民のパーソナリティ型に応じて仕立てられた会話のガイドラインでもって事前に準備する。
選挙運動人は訪問の後に、どういう反応だったかをアプリに入力し、その新しいデータがトランプ陣営の本部コントロールパネルに流れ返っていく。
これ自体には、目新しいことは何もない。民主党陣営も似たようなことをしてきた。
しかし、民主党陣営が計量心理学的身辺調査に頼ったという証拠は何もない。
一方、ケンブリッジ・アナリティカは米国の全人口を32のパーソナリティの型に分類し、17の州にのみ注力した。
そしてちょうどコシンスキがMACの化粧品が好きな男性は同性愛者の傾向が少しながら高いという傾向を見出したのと同様に、同社は米国製の車を好む人は潜在的トランプ支持者であることを示唆する大変良い指標であることを発見した。
他の要素に加えて、これらの発見により、今やトランプはどのメッセージが最善でどこで発言するのが良いか、ということを知った。
選挙戦最終盤でミシガン州とウィスコンシン州に集中するという決定は、データ解析に基づいたものだ。
選挙候補は、ビッグデータのモデルを適用するための駒となったのだ。
次に来るのは何か?
当然ながら、トランプの勝利の唯一の理由がケンブリッジ・アナリティカというわけではない。
とは言え、計量心理学的手法は、具体的にはどの程度、選挙の結果を左右したのだろうか?
ケンブリッジ・アナリティカにその質問をしたところ、同キャンペーンの効果についていかなる証拠を提示することも渋った。
そして、実際、その質問に答えるのは不可能なのかも知れない。
しかし、それでも手がかりはある。
予備選挙においてテッド・クルーズが意外にも芽を出してきたという事実。また、田舎で投票する人が増えた。アフリカ系アメリカ人の投票者数が初期には少なかった。
トランプ陣営が使った費用がごく少なかったにもかかわらず選挙で勝ったという事実もパーソナリティに基づいた広報戦略の有効性で説明できるかもしれない。
トランプが、ヒラリー・クリントンに比べるとテレビ放映との比較でデジタル分野にはるかに多く投資したこともまた同様のことを示唆しているだろう。
ニックスが説明したように、またトランプ陣営の数人の高官が発表したコメントのように、フェイスブックが究極の武器でかつ最高の選挙キャンペーン運動体であることが証明された。
統計学者の予想があまりに現実とかけ離れていたことから、統計学者こそ選挙に負けたと言う人が少なくない。
しかし、実は統計学者は選挙戦勝利に貢献した、ただしこの新手法を使った人々に限られる、としたらどうだろう?
科学研究についてしばしば不満を漏らすトランプが、自身の選挙運動において高度に科学的な手法を用いたことは、歴史の皮肉と言える。
もう一人、大勝したのは、ケンブリッジ・アナリティカだ。
同社役員で、また右派のオンライン新聞『ブライトバート・ニュース』の前取締役会議長でもあったスティーブ・バノンは、ドナルド・トランプ政権の上級顧問兼首席戦略官に任命された。
ケンブリッジ・アナリティカは英国首相テレーザ・メイと現在交渉中と噂されることについてコメントを差し控えている。
その一方、アレクサンダー・ニックスは、世界中に顧客ネットワークを築きつつあって、スイス、ドイツ、オーストラリアから問い合わせがあったと言っている。
同社は現在、ヨーロッパ一円の会議に参加中で、米国における同社の成功譚を披露している。
本年、EUの中核である三国、フランス、オランダ、ドイツで選挙があり、いずれもポピュリスト政党の巻き返しに直面している。
ケンブリッジ・アナリティカが広報活動を本格化させようとしている中、先の選挙戦略の成功はタイミングの良いものだった。
コシンスキはこれらすべてをスタンフォード大学の居室から観察した。
米国の大統領選挙の後、大学は大騒ぎになった。
コシンスキは、それに対し、研究者が用いることのできる最も鋭利な兵器でもって、すなわち科学的解析によって、応えようとしている。
共同研究者のサンドラ・マッツとともにコシンスキは一連の試験を実施し、その結果は近く発表される予定だ。
初期結果は不安を搔き立てるものだ。
それは、パーソナリティによって標的を調整する手法の有効性を示していて、もし消費者のパーソナリティ特性に合わせてメッセージを送りそれに合った商品を提示するならば、フェイスブックの実際の広告にて63%高いクリック率、およびそうでない場合に比べて最大1400人の気を変えさせることができることを示している。
さらに、製品やブランドを売り出している大半のフェイスブックのページはパーソナリティによって影響を受けること、そして多数の消費者はたった一つのフェイスブックのページに基づいて、正確にターゲッティング広告を向けることが可能であることを示していて、個々人のパーソナリティに基づいた標的選択手法を大規模化することの可能性を明らかにした。
本稿のドイツ語による出版の後、ケンブリッジ・アナリティカの広報担当者が以下のコメントを発表した。
「ケンブリッジ・アナリティカはフェイスブックのデータは使用しない。弊社はミハル・コシンスキ博士とは一切繫がりがない。研究成果を外注することもない。同じ手法も用いない。計量心理学はほとんど用いられていない。ケンブリッジ・アナリティカは、大統領選挙においていかなるアメリカ人にも投票を思いとどまらせるような活動には関与していない。弊社の努力は、これすべて選挙において投票数を向上することだけに向けられたものだ」
世界は混乱の極みになってしまった。
英国はEUを離脱する。
ドナルド・トランプはアメリカ合州国の大統領だ。
そしてスタンフォード大学では、政治において計量心理学的な標的の選択手法を使う危険について広く警鐘を鳴らすことを望んでいたコシンスキが、再び非難の電子メールの数々を受け取っている。コシンスキは首を振りながら静かに言う。
「違う。それは私の責任ではない。私が爆弾を作ったわけではない。私は爆弾が存在することを示しただけだ」
* 本稿の追加の研究報告がポール=オリヴィエ・デヘイェ(Paul-Olivier Dehaye)によってなされている。
(訳注1) 欧米においてよく見かける怪しげな広告の典型の一例として、高血圧治療薬が挙げられているもの。日本では、高血圧治療薬よりもおそらく別業界の広告(例えば18禁製品)が多いことだろう。受取人が誰でどういう人か、例えばスイス人か日本人か、によって表示される内容が変わる、ということが、この問題の本質的な点の一つであろう。戻る
(訳注2) フェイスブックをはじめとするソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)が出現する以前は、人々は自分の見たいウェブサイトを、自身の「ブックマーク」に基づいて、自発的に見ていたものだった。一方、SNSでは、その「ブックマーク」に対応する情報(例えばレディ・ガガが流す最新情報へのポインター)は、それぞれのSNSの中で管理され、かつ一般に公開される情報となっていることが少なくない。もし前者であれば、たとえば100のサイト(や友人、有名人、企業、イベント、メディアなど)の更新情報を追いかけているならば、毎回違ったサイトを自発的に開く必要があるのに対し、後者ではそれらがそのSNSという一つのサイト(あるいはアプリ)で一括管理されるため、ユーザーにとってはずっと使いやすい、という利点が否めない。そのためには、関係するユーザーの多くがその該当SNSを積極的に使っていることが条件になるが、一部の巨大SNSはその実現に近いと言ってよい(世界最大手のフェイスブックのユーザー数は報道によれば20億に近い)。その際、前者の場合、「ブックマーク」が保存されているのは自己のコンピューター(の記憶媒体)内であり、通常、自分だけが見られる情報となっているのに対し、後者の場合、保存しているのはSNS運営会社で、かつその多くあるいは一部がネット上に広く公開されることが通常となっている。加えて、何らかの情報を広く公開することへの技術的・経済的な敷居が、SNSによって昔に比べてはるかに低くなっている中、情報(プロフィール、自撮り写真、コメント、意見論説など何でも)を広く公開する傾向も加速しているようだ。本稿で述べられていることが可能になったのは、(筆者が明言しているようにそれだけではないにせよ)SNSが広く使われるようになった昨今の状況に深く関係する、と言えるだろう。戻る
(訳注3) 有権者の行動の詳細分析により、地域やグループあるいは個人それぞれ向けに異なる戦略を適用する手法を指す政治用語。早くは1990年代前半に見られ、2004年の米大統領選で大規模に使われたことで認識された概念、とされる。戻る