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光州事件で殺されたの人々の声が聞こえる〜BTS(防弾少年団)から日本と世界を見つめる(3)

光州の人々の声が聞こえる

 彼らのこのアイデンティティの流れは、2015年「花様年華pt.2」の収録曲「Ma City」にも続く。音楽のレベルも数段にアップした。 

1-3)「Ma City」2015年 作詞 Pdogg, "hitman"bang, Rap Monster, SUGA, J-Hope

画面の上に写っているのは、左から「プサン」「イルサン」「光州」「コチャン」という地域名

 

 私には、BTSが提供する曲は大きく以下の3つに分かれているように感じる。 ①愛の歌 ②応援(と応援を求める)歌 ③抵抗(または挑戦)の歌。

 この「MaCity」は、③に入る。しかも、このMa Cityは江戸時代の俳句・折句「かきつばた」のように、意味を何層にも重ねているのだ。(※「ら衣 つつなれにし ましあれば るばるきぬる びをしぞ思ふ」つま=着物のツマと妻 はるばる=着物の状態と、かきつばたの花の名前を折り込んだ。 )

 私は、J-hopeが笑顔で画面の中にいるだけで、なんか、ホッとしてしまう。

 韓国の民衆史の、とりわけ虐殺の中で、命が繋がり、そして、世界に羽ばたく光州の若者がここにいると思うだけで、韓国の民主主義はきちんと積み上げられているんだなと実感できるからだ。

 「Ma city」は、それぞれの故郷を思った歌でもあるが、J-hopeのパートの部分が、私には鎮魂歌のようにも、殺されていった光州の子どもたちのプロテスト・ソングにも聞こえるのだ。


 「Ma city」【辛淑玉意訳】

전라남도광주/ 俺は 全羅南道光州(生まれ)

발걸음이산으로간대도무등산정상에매일매일/俺の歩みは(どこの)山に向かってもゴールは無等山頂。

삶은뜨겁지, 남쪽에열기이열치열법칙포기란없지/俺の情熱の人生は全羅道の熱気 やられたらやりかえす 法を放棄することはない(民主主義を放棄することはない)

KIA넣고시동걸어미친듯이/俺はKIA(全羅道の自動車メーカーとギアをかけている)入れて、エンジン全開

오직하나로가수란꿈을키워/ダンス片手に、歌手を目指して、夢を追う

이제현실에서음악과무대위에뛰어/今は、リズムと一緒にステージで 弾む、踊る、跳ねる

봤지열정을담았지광주호식이다전국팔도는기어/見たろ熱い青春のオレは光州のホシギだ。全国に名を轟かせるよ。

 볼라면시간은7모여집합/くるなら来てみ、7時に待ってるぜ

모두다눌러라062-518/みんな押せ062-518


 最後の、062は光州の地域番号であるり、518は、5月18日の光州蜂起の日のことだ。5月18日から27日までに起きた、韓国軍による民衆虐殺事件のことをここでは指している。

 キアに乗ってエンジン全開とは、まさに、虐殺のとき市民の盾となったタクシー運転手たちのことを彷彿させ、法を放棄しないとは民主主義の放棄はないとした徹底的な抵抗であり、闘い抜いたという光州市民の誇りを彷彿とさせる。

 自国の軍に虐殺され青春を奪われた若者たちの思いを背中に、夢を追い続ける。だから、「オレを見るなら」みんな7時に集まれとは、コンサートの開始時間に集まれと、当時抵抗運動で叫ばれた言葉と、ソウルから見たら光州が7時の位置にあるという比喩が重なって聞こえるのだ。

 この曲のベースになったと言われているのが、SUGAが高校生(デビュー前)の時にプロデュースした「518-062」と言われている。SUGA自身は慶尚道大邱市の出身だ。

 ひとりひとりが自分の運命の主人公になる

 彼らが政治的かと問われれば、韓国の民衆にとって、生きることが政治なのだと答えたい。

 例えば、それは、広島の歴史が原爆投下の事実から離れられないように、沖縄の歴史が沖縄戦を無視して成り立たないように、韓国では民衆の抵抗と民主主義の奪還の歴史なくして今はないからだ。

 2019年3月11日、虐殺の首謀者で当時の大統領全斗煥(87)が起訴され、光州地裁の公判に出廷するため光州に到着した時、小学生が学校の窓から「全斗煥は帰れ!引っ込め!」と声を上げた。自分たちの家族史の中に光州事件がある。子どもたちの行動は、真っ当な歴史(事実)認識の結果と言える。

  

  全斗煥に抗議する小学生(※)

たとえば、光州虐殺は、韓国の民主主義の産みの苦しみそのものだった。

その思いを端的に伝えたのは、2019年5月7日ドイツ紙フランクフルター・アルゲマイネ(FAZ)紙に投稿された、韓国ムン・ジェイン大統領の寄稿文「平凡さの偉大さ 新たな世界秩序を考えて」である。

 平凡な人々が力あるものに支配されるのではなく、自分の運命の主人になる。

それは取りも直さず、BTSが絶えず伝えている「自分自身を愛そう」につながるのだろう。

 2018年10月14日 フランスで開催された韓仏交流会会場にて BTSとムン・ジェイン大統領

 

 

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著者略歴

  1. 辛淑玉

    1959年、東京生まれ。在日三世。人材育成コンサルタントとして企業研修などを行なう。ヘイト・スピーチに抗する市民団体「のりこえねっと」共同代表。2003年、第15回多田謡子反権力人権賞、2013年、エイボン女性賞受賞。著書に、『拉致と日本人』(蓮池透氏との対談、岩波書店)、『怒りの方法』『悪あがきのすすめ』(岩波新書)、『鬼哭啾啾』(解放出版社)、『差別と日本人』(野中広務氏との対談、角川書店)など多数。

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