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連載 モザンビークで起きていること

隠される「ナカラ・ファンド」の資料

 一方のJICAは、「ナカラ・ファンド」への一切の関与を否定してきた。しかし、国会議員による繰り返しの情報請求の結果、2012年6月だけでなく、8月にも、同「ファンド」の説明がJICA主催セミナーで行われたことが明らかになった。しかし、JICAは、このセミナーの式次第を「作成せず」とし、発表資料についても「公にしないとの条件のもと民間企業より提供された」ため公開できないと主張した[i]。これを受けた日本のNGOは、情報公開法に基づき、「ナカラ・ファンド関連資料」の開示請求を行う。しかし、JICAが開示した資料は、過去にNGOがJICAに提供したものばかりであった。
 
 2015年3月、不服申し立てを受けた「情報公開・個人情報保護審査会」は、詳細なる調査を開始する。その結果、JICAが上記の6月と8月のセミナーの発表資料を保有していたことが確認された。同審査会は、2015年9月の答申で、JICAに全面開示を命じるとともに、「(情報公開)法一条及び三条の趣旨に照らし、不適切」と苦言を呈した[ii]
 
 これほどまでJICAが隠したかった資料。一体、何が書かれていたのだろうか?
 
 
隠された資料に書かれていたこと
 
 新たに開示された3点のFGVの「ナカラ・ファンド」資料からは、興味深い事実が判明した。まず、2012年6月の「報告会」資料である。同「ファンド」の諮問委員会にJICAが加わった図が掲載され、乾団長が述べた「大小農民の共存」の具体像が描かれていただけでなかった。翌7月にブラジリアで「ナカラ・ファンドのキックオフ」の式典が予定され、その後援者にJICAが名を連ねたことが明らかになったのである[iii]
 
キックオフ式典
〔キックオフ式典の案内資料〕
 
 2点目の資料から、「キックオフ」式典に、FGVの「プロサバンナとの契約式」が含まれていたことも明らかになった。出席者一覧の中には、駐ブラジル日本大使の名前とJICAブラジル事務所長の肩書きが記されている[iv]
 
 国会議員の情報照会で、さらに驚きの事実も発覚した。8月セミナー時の「ナカラ・ファンド」の説明は、FGVではなく、JICAアフリカ部の職員が行ったというのである[v]。1年がかりで開示された8月の発表資料は、6月時点のものと大差ないが、決定的に異なる点があった。日本の「ファンド」への関与の提案や計画が日本語で記されていたのである[vi]
 
 資料には、JICAから「ファンド」への資金投入が「検討中」と書き込まれているほか、参加の条件として、「ア 日本企業が確実に参画でき、日本企業の利益に繋がることが期待できるか否か」が筆頭にあげられていた。残りの3条件は、環境社会配慮に関するものである。そして、「今後のスケジューリング」には、すでに終った「2012年6月 キックオフミーティング」、「7月 設立構想の発表」、「8月〜 三カ国での議論」が記されていた。
 
 また、予定として、「2013年4月 ファンドデザイン最終化」、「9月 事業への運用準備開始」が書かれていた。さらに、「諮問委員会」から踏み込み、「理事会」へのJICAの参加が明記された図が添付されていた[vii]
 
JICAが理事会に参加している図
〔理事会へのJICAの参加が明示された図〕
 
 
何も知らされぬモザンビーク北部の住民
 
 2012年8月。いよいよプロサバンナ事業と「ナカラ・ファンド」の実施が秒読み体制に入った。2008年の国際食料価格の高騰以来、農地と大豆・穀物を求めるマネーが「最後のフロンティア」と呼ばれる世界各地の自然豊かな地域に触手を伸ばしていた。これに、日伯の官民が「プロサバンナ」の名の下に合流し、大きな濁流となってモザンビーク北部に押し寄せようとしていた。
 
 一方のモザンビーク北部の住民、その圧倒的多数を占める小農は、何も知らされないまま留め置かれていた。しかし、2012年4月の「合同ミッション」以降、急に増えた報道に、小農や市民社会は不安を募らせるようになっていた。北部のあちこちで、「車や軽飛行機で土地を調べる白人」の姿が頻繁に目撃されるようになる一方、企業による大豆の大規模プランテーション栽培のために土地が奪われる住民が出てくるようになると、その不安は瞬く間に広がっていった。(なお、大豆はモザンビークではほとんど栽培されておらず、食されてもいなかった。)
 
 立ち上がるモザンビーク北部の小農
 
 この濁流に最初に立ち上がったのは、ほかでもない北部の小農自身、とりわけ、1987年に結成されたモザンビーク最大の小農運動、全国農民連合(UNAC)に加盟する小農たちであった。昨年11月に来日した事業対象地の小農リーダーは、当時のことをふり返り、次のように語っている。
 
「報道で心配が募り、UNACが国際NGOの協力を得て調査を行った。JICAにもインタビューした。その結果を集まって聞き、皆で議論に議論を重ねた。最後は懐中電灯を照らしながら声明を書いた」
 
 2012年10月に発表されたこの声明には、プロサバンナ事業が、地域の圧倒的多数の主権者である小農を無視し、不透明かつトップダウンなものとなっていること、そして、セラード農業開発と同様に大規模な土地収奪を招き、農薬汚染などを生じさせるとの懸念が表明されていた[viii]
 
 
〔註〕
 
[i] JICAから石橋通宏議員への「資料提出のご依頼への回答」(2015年3月17日)
[ii] 情報公開・個人情報保護審査会 答申書(諮問番号平成27年(独情)諮問第17号/答申番号平成27年(独情)答申第39号、府情個第2836号、平成27年9月9日)。http://koukai-hogo-db.soumu.go.jp/reportBody/9944
[iii] JICAによる情報開示資料FGV “Tropical Belt: Nacala Corridor ProSavana Program”(2012年6月)https://www.farmlandgrab.org/uploads/attachment/FGV2012JuneJICATokyo.pdf
[iv] JICAによる情報開示資料 “Lançamento do Fundo Nacala”(2012年6月22日)
[v] JICAから石橋通宏議員への「資料提出のご依頼への回答」(2015年3月17日)
[vi] JICAによる情報開示資料“Tropical Belt : Nacala Corridor ProSavana Program” (2012年8月) https://www.farmlandgrab.org/uploads/attachment/FGV2012AugJICA.pdf
[vii] 同上

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著者略歴

  1. 舩田クラーセンさやか

    明治学院大学国際平和研究所研究員。国際関係学博士(津田塾大学)。元東京外国語大学大学院教員。元日本平和学会理事、元日本アフリカ学会評議員。主著書に『モザンビーク解放闘争史』(御茶の水書房、日本アフリカ学会奨励賞)。編著に『アフリカ学入門』(明石書店)など。

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