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連載 モザンビークで起きていること

JICAの介入に反発する小農や「キャンペーン」

 モザンビークの小農や「キャンペーン」は、JICAがNGOと関係の深い地元コンサルタントを使い、市民社会に公然と介入し始めたことに反発し、正式に抗議の声をあげる[i]。しかし、JICA(農村開発部・アフリカ部)は、自らの契約コンサルタントを「独立(主体)/第三者」と主張し、対話メカニズム(MCSC)の結成は市民社会の「発意」として、「UNAC(モザンビーク全国農民連合)もMCSCに乗って議論すればいい」と反論し続けた[ii]
 
 事実関係を明らかにするため、日本のNGOや国会議員は、MAJOL社が提出した三点のレポート(「契約成果物」)の開示を要請するが、JICAは「現地政府の同意が得られない」と拒否し続けた。この最中に、ある出来事が起こる。
 
内部告発者からのリーク:JICAに提出された「レポート」の衝撃
 
 2016年4月、40点を超えるプロサバンナの関連文書が、日本とモザンビークのNGOに届けられた[iii]。内部告発者によるリークであった。この中に、MAJOL社がJICAに提出した三点の「成果物(レポート)」も含まれていた。
 
 その結果、レポートの中身が明らかになった。最初のレポート(ドラフト)には、各団体の「プロサバンナへの立場・利害関係・影響力」を調べて四分類すること、「団体間の対立」や「プロサバンナとの同盟」の「潜在性」を調査することが提案され、10団体に関する結果が記されていた[iv]。のちにJICAによって開示された最終文書から、米国の国際諜報機関CIAが行うような調査内容の提案がすべてJICAに承認され、これに基づいて契約金の一部が支払われていたことが明らかになった[v]
 
 また、これらの文書により、11月時点でMAJOL社から「市民社会対話プラットフォーム」の仕様書がJICA・政府側に提案され[vi]、JICA側の丁寧な添削と修正を経た最終版が双方の間で完成していたことが分かった。
 
 二点目の12月の「中間レポート」には、前述の手法に基づいて作成された団体一覧が掲載され、各団体の「色分け」がなされていた[vii]。そして、小農組織を含む「キャンペーン」の加盟団体が「強硬派」として赤に塗られ、「交渉に際し無視できる十分小さいマイノリティ」との結論が示された[viii]。また、国内団体に対して強い影響力を持ち、「キャンペーン」団体の資金提供元となっている国際NGOについて、「取り込むべき」と記され、具体的な手法も提案されている[ix]
 
 三点目の「最終レポート」はさらに衝撃的である。小農組織や「キャンペーン」を「過激派」として記しただけではない。JICAの指示通りにUNACをMCSCに取り込めなかったことをJICAは落胆すべきではなく、「ナカラ回廊の小農の代表性」という意味では、「選挙で小農自らが選んだ州・国会議員以上に相応しい存在はいない」とのロジックを他の市民社会組織と考え出し、すでに実行に移していると書かれている[x]
 
つくり出された市民社会内の「敵」と「味方」
 
 ここには、前回紹介した『戦略書』と同じ思考がより強まった形で示されていた。つまり、JICAとそのコンサルタントは、事業に異議を唱える人びとを明確に「敵」扱いして市民社会を分断し、どのようにすれば「敵」の主張を弱められるかを「味方」と相談し、結果を実際に行動に移していたのである。
 
 リークを受けたJICAは、これらのレポートの最終版を開示するが、以上の記述はすべて削除されるか黒く塗られていた[xi]。「最終レポート」のドラフトには、「このレポートはJICAからの指示に従って作成されており、問い合わせはJICAモザンビーク事務所のHiroshi Yokoyamaに」と書かれており、責任の所在は明らかであるが[xii]、開示版ではこの部分も黒く塗られている。
 
 現地市民社会組織の動向や特徴を偵察し、事業への賛成反対で色分けした意図について、農村開発部の天目石慎二郎課長(現ケニア事務所)は、「途中段階のものが流出してしまった…… 我々の業務で品質管理されて出てきたものと乖離……途中段階ではそれこそやったかもしれない。ただ最終成果物としては、必要ない」と言明している[xiii]
 
JICA事務所内での賛成派NGOへの「資金提供会合」
 
 一連のリーク文書の中には、2016年4月にJICAモザンビーク事務所で開催された「MCSC・JICA・農業省のマスタープラン見直し/最終化の資金提供会合」の記録も含まれていた[xiv]
 
 この会合には、モザンビーク農業省の元副大臣のほか、JICAの須藤勝義所長と前述のYokoyama(横山浩士)氏、そしてMAJOL社とともに先頭に立ってMCSCを結成し、そのコーディネイターに就任したNGO(SOLIDARIEDADE)のアントニオ・ムトゥア氏とWWFモザンビークのスタッフが参加した。「三角協力」と称しながらブラジルからの参加はなかった。
 
 冒頭、須藤所長が、JICAからMCSCへの資金提供は困難に直面しているものの、「急ぎで資金が必要ならば」と述べ、迂回路を使った四通りの資金提供の手法について説明した[xv]。これを受けて、ムトゥア氏は、MCSC結成から4月までの活動を次のように報告している[xvi]
 
 「『プロサバンナにノー(キャンペーン)』を支援する複数のNGOとその他の関係者に心理的な働きかけを行い、メカニズム(MCSC)のビジョン・目的と同盟を組むように促す活動を、マプート(首都)と各州のレベルで行った」
 
 つまり、「キャンペーン」潰しの活動がJICA・政府側に報告されているのである。続けてムトゥア氏は、同様の活動を郡レベルに広げるための資金援助をJICAに要請し、その場で直ちに了承されている[xvii]。国会議員の情報請求への回答によると、2週間ほどの活動に総額350万円(うち会議費70万円)が提供されたというが現在も詳細は不明のままである。
 
 この会合の2ヶ月後、JICAを除く残りの出席者はブラジルに向かい、同国の市民社会にプロサバンナ事業への賛同とMCSCへの協力を呼びかけた。まさに、ムトゥア氏が首都と州レベルで行った心理作戦を事業の一角を担うブラジルで行ったことになる。

 

↑JICAモザンビーク事務所からMAJOL社に送られたコンサルタント契約への応募依頼レター。2015年10月7日の日付が見える。この数ヶ月前、MAJOL社は、外国ドナーのプロサバンナ事業に関する調査のコンサルタントとして、JICAモザンビーク事務所を訪問し、インタビューを行っていた。MAJOL社が調査対象であるJICAのコンサルタントとなったことから、この外国ドナーは契約を継続しなかった。

↑内部告発者にリークされた文書。JICAに提出されたMAJOL社の中間報告書(2015年12月)。MAJOL社は、JICAの指示書や双方が同意したインセプションレポート(2015年11月)にしたがって、モザンビークの市民社会組織や影響力がある個人を個別訪問し、プロサバンナ事業への姿勢と他への影響力を調査した。その結果を、4つに色分けし、対話を望まない団体を赤色に塗りつぶすとともに、「ダイハード」「過激派」などと形容して、これらを敵視し、「無視」すること、その影響力を削ぐ方法などを詳しく記述するレポートをJICAに提出している。なお、MAJOL社との契約終了後、コンサルタントの一人は、2016年から現在まで、モザンビーク農業食料安全保障省内の3カ国共同プロサバンナ本部のスタッフとして、JICAの資金で派遣されている。

↑上と同じ報告書であるが、情報公開法に基づきJICAから開示されたもの。調査の根幹を成した色分け部分はすべて真っ黒塗りとされた。

↑契約時のJICAの指示書にしたがい、MAJOL社からJICAにドラフトとして提出された「プロサバンナ事業のための市民社会実行委員会の要項」。JICAの主張と異なり、当初からJICAが地元コンサルタントを使って自らがコントロールする形の市民社会のフレームワークを作ろうとしていたことが分かる。このリーク文書(ドラフト)とJICAによる開示文書(最終版)では、要項の分量も中身も大幅に異なっており、JICA側の修正依頼が相当程度あったことが示唆される。

↑2016年4月12日にJICAモザンビーク事務所で開催されたプロサバンナ事業の「賛成派」モザンビーク市民社会への資金供給検討会合の議事録。リーク文書。ブラジル政府関係者の名前はなく、JICAとモザンビーク政府とこれらNGO関係者の非公式の会合であったことが分かる。この会合に出席していたNGOとJICAが、後に「コンサルタント契約」を交わし、2000万円を超える資金の提供を約束される。
 
 
[ii]第15回「ProSAVANA事業に関する意見交換会」(2016年2月19日、於外務省)逐語議事録http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/activities/20171112/09_005.pdf第16回「ProSAVANA事業に関する意見交換会」(2016年3月9日、於外務省)逐語議事録 http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/activities/20171112/09_015.pdf
[iii]これらのファイルは国際NGOのサイトに一括掲載されているhttps://farmlandgrab.org/26158
[v]JICAが承認した最終版も同様の内容であるhttp://www.ajf.gr.jp/lang_ja/activities/20171112/09_016.pdf 契約書では、この「インセプション・レポート」の承認をもって契約金の25%(132万円)が支払われることになっていたhttp://www.ajf.gr.jp/lang_ja/activities/20171112/09_012.pdf
[xi]http://www.arsvi.com/i/ProSAVANA_r/index_docs.html 「(1)コンサルタント契約」の「JICA’s contract with MAJOL」の掲載文書を確認。
[xiii]第17回「ProSAVANA事業に関する意見交換会」(2016年7月21日、於外務省)逐語議事録「http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/activities/20171112/09_029.pdf
[xvi]同上1-2頁。(日本語訳では2頁)http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/activities/20171112/1_0041.pdf

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著者略歴

  1. 舩田クラーセンさやか

    明治学院大学国際平和研究所研究員。国際関係学博士(津田塾大学)。元東京外国語大学大学院教員。元日本平和学会理事、元日本アフリカ学会評議員。主著書に『モザンビーク解放闘争史』(御茶の水書房、日本アフリカ学会奨励賞)。編著に『アフリカ学入門』(明石書店)など。

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