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連載 モザンビークで起きていること

日本・ブラジルの官民による「農業投資合同ミッション」

 モザンビークからブラジルに帰国したニシモリ議員の訪問を受けたニッケイ新聞は、「世界で食糧危機が懸念される今、一大食料生産地となる可能性を秘めた同地には多国が狙いを定めており、企業家らは先駆けて交渉に踏み切ろうとしている」と記すとともに、同議員の「プロサバンナの第一歩を踏み出した。我々は農業者の入植をしっかりバックアップしていきたい」との説明を報じている[i]。その一ヶ月後、ニシモリ議員は、事業への期待をブラジル議会のテレビ番組で次のように語っている[ii]
 
「この地域(モザンビーク北部)ではヴァーレ社も石炭や鉄鋼などの鉱物資源の採掘を行っている。そこに今度はブラジル人農業労働者を連れていく。ブラジルで農業をしたくても土地が不足している……熱意がある若い人が大規模で近代的な農業を行うことを切望している」
 
 後にJICAは、モザンビークでの反対運動を受けて、ニシモリ議員の説明を「誤解」として否定した。しかし、「合同ミッション」に関するJICAの広報記事は、「日本、ブラジル、モザンビークの関係者が同じ意識を持って役割分担をしながら開発に参加していくビジョンが共有された」と締めくくる[iii]
 
非公開の東京での「合同ミッション報告会」
 
 「合同ミッション」から二ヶ月後の2012年6月、JICAはブラジルとモザンビークの参加者を日本に招く形で、「報告会」を開催する。東京のJICA研究所で行われたこの報告会には、100名を超えるJICA、外務省、農水省、経産省、日本企業の関係者が参加した。しかし、現在も参加企業名や詳細は不明のままである。唯一、JICAの乾団長による「派遣団報告」が公開され、結論として「プロサバンナを通じた大小農民共存による農業開発モデルの構築」が掲げられたことだけが知られていた[iv]
 
 その後、国会議員による再三の要請を受けてJICAが開示したのは、当日の式次第とニシモリ議員の発表写真だけであり、主要議題とされた民間基金「ナカラ・ファンド」に関しては、資料の存在すら確認されなかった。
 
 
プロサバンナ事業と「ナカラ・ファンド」のリンケージ
 
「ナカラ・ファンド」とは、ブラジルの教育シンクタンク機関「ジェトゥリオ・ヴァルガス財団(FGV)」が提唱する民間基金である。元大統領の名前を冠したFGVは、ブラジル内外で一目置かれる存在である。アグリビジネス部門のトップを元農務大臣ロべルト・ロドリゲス氏が務めるが、同氏はセラードの農業開発で重要な役割を果たし、世界や日本のアグリビジネス関係者と太いパイプを持つ。
 
 ベールに包まれた「ナカラ・ファンド」であるが、2012年末、FGVが国際会議で使用した資料がネット上で「発見」されたために、その詳細が明らかになった[v]。この資料には、プロサバンナ事業で策定される「ナカラ回廊農業開発マスタープラン」に基づき、世界の投資を集めて大豆やトウモロコシ、米、綿花などの生産を進めるとの構想が描かれていた。また、「ファンド」の「諮問委員」としてJICAの名前が記され、「2012年11月にファンドレージング開始」と書かれていたことから、世界レベルで懸念が広がっていく[vi]
 
 加えて、ブラジル市民社会の情報により、新たな事実が発覚する。FGVが、プロサバンナ事業のコンサルタントとして上記の「マスタープラン」の策定に携わっているというのである。つまり、公共事業の一環で開発プラン作りを受託した組織が、プランを実行に移すための民間投資を集める主体でもあるという利益相反の状況が生み出されていたのである。このことは、後に日本の国会でも問題として取り上げられることになる[vii]
 
 ブラジル・アグリビジネス界の狙い
 
 ブラジル側の狙いは、2013年5月にブラジルのテレビ番組で放送されたFGVのクレバー・グアラニ氏のインタビューに明確に示されている[viii]。同氏は、「ナカラ・ファンド」の担当者である一方、プロサバンナ事業のコーディネイターを務めていた。グアラニ氏は、日伯連携の重要性、そしてプロサバンナ事業と「ナカラ・ファンド」の密接な関係を強調した上で、両事業のブラジルのアグリビジネス界にとっての意義を次のように整理した。
 
 まず、モザンビーク北部に「広大な農業適地」が余っており、「最後のフロンティア」となっていること。また、セラードより土壌が肥沃な一方で、病害虫が発生していないため、化学肥料や農薬の使用量が減らせ、生産コストを下げられること。
 アジア市場に近く、輸送コスト・期間の面で有利なことの三点である[ix]
 
 その後、ロドリゲス元農務大臣が行った「ナカラ・ファンド」に関する発表の中身も明らかになった。「諸外国での日伯連携の強化」と記されたスライドでは、ナカラ回廊地域に「千万ヘクタールの農業適地」があり、「第一段階として35万6千ヘクタール」を対象に「20億ドル(222億円)の投資」を呼びかけ、「日伯によるモザンビークへの技術移転」を進めると書かれていた[x]
 
 
〔註〕
 
[i] 同上のニッケイ新聞記事http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35335
[ii] ブラジル議会テレビTV CAMARA Palavraberta(2012年6月27日) ”O projeto Prosavana - uma visão menos maquiada”が、国際NGOのサイトに転載https://farmlandgrab.org/21652
[v] FGVが国際会議で使用したパワーポイント http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/ProSAVANA/3kai_shiryo/ref10.pdf
[vii] 参議院本会議(平成26年1月29日)での審議記録http://www.ajf.gr.jp/lang_ja/ProSAVANA/8kai_shiryo/ref7.pdf 神本美恵子参議院議員による「モザンビークでの三角協力プロサバンナ事業に関する質問主意書」(平成26年3月7日)
[viii] 動画は国際NGOのサイトに転載https://farmlandgrab.org/23739
[ix] 同上インタビュー

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著者略歴

  1. 舩田クラーセンさやか

    明治学院大学国際平和研究所研究員。国際関係学博士(津田塾大学)。元東京外国語大学大学院教員。元日本平和学会理事、元日本アフリカ学会評議員。主著書に『モザンビーク解放闘争史』(御茶の水書房、日本アフリカ学会奨励賞)。編著に『アフリカ学入門』(明石書店)など。

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