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連載 デルクイ

ドイツの「落書き消し隊」に出会った

ドイツにも排外主義はある
 
 ナショナリズムと排外主義は世界中で台頭している。それはドイツも例外ではない。しかしこちらでは、ネオナチの活動には必ずカウンター(対抗勢力)が対峙している。
 
 先日ベルリンで行なわれたネオナチの集会では、双方ともに1000人くらいの規模で互角だった。ケルンやデュッセルドルフではネオナチ50人に800名のカウンターといった状況。一方、旧東ドイツではネオナチの方がはるかに多く、ペギーダ(「西洋のイスラム化に反対する愛国的欧州人」、反イスラム運動)のデモ500人に対してカウンターは50~100人、といった感じだ。
 
 旧東ドイツ地域に排外主義者が多い理由は、統一後の経済格差への不満もあるが、東ドイツでは、1990年まで続いた社会主義政権下で、きちんとした近代史教育と過去の清算をしなかったからだと断言できる。彼らにとって、ヒトラーのやった悪事は一応知ってはいても、あくまで他人事なのだ。
 
 彼らの意識からは、近代は完全に切り離されている。プラカードに「メルケルはヒットラーだ」などというスローガンが書かれているのを見て、何がなんだか分からなくなったこともある。
 
     
ペギーダのデモ/ドレスデン                       ヘイトデモをシットインで阻止するベルリン市民(撮影 島崎ろでぃ)
 
差別落書きやシールに対処する
 
 そんな中、友人の紹介で、「アンティファ」(アンチ・ファシズム)の人たちによる差別シール剥がし活動に参加した。
 そういえば、2013年に東京・新大久保で行なった「落書き消し隊」では、差別落書きを見つけてはグーグルマップにマッピングし、ツイッターでボランティアを集め、それぞれができることを分担して、約60件の差別落書きを消去した。
 
 街を歩いていて、私を含む在日に向けられた差別落書きが目に入るだけで、こんなことを書くような人がここにいて、同じ空間で生活をしているのだと感じて緊張を強いられた。だから、それが消されるだけでも、ホッとすることができた。
 ドイツの差別落書きは、主にシールである。内容はナチスを賛美するものや、同性愛の人たちをターゲットにしたもの、脅迫めいたものなど、さまざまだ。
 
  それらを一枚一枚剥がしていたら、何日もかかってしまう。そこで彼らは、差別シールの上に別のシールを貼るという作戦に出た。多様なメッセージが印刷されたシールを持っていき、ネオナチのシールの上にどんどん貼っていく。その行為自体が、差別を許さない人がここにいるよ、という、被差別者への連帯のメッセージにもなっている。
 
     
 ネオナチのシール             アンチ・ファシズムのシール     ネオナチシールを封じる
 
話しかけてきた「コミュニスト」
 
 1チーム15人前後で、一回2時間程度のこの活動は、不定期に行なわれている。メンバー募集はSNS。
 私が集合場所に行っても、誰も私の個人的なことは聞こうとはしない。私も参加者の名前は聞かない。ただ、自分から、日本から来た韓国籍の三世とだけ自己紹介をした。
 
 シール剥がしの注意事項を述べる進行役の人は、「今日は年齢層が幅広いので……」と、暗に私をサポートするよう促していた。参加者は20代30代が中心で、最高齢が私(笑)。
 
 帰り際、一人の青年が質問をしてきた。天皇の戦争責任についてだった。驚いた。そんな質問が出るとは夢にも思っていなかったので、頭が真っ白になった。その青年はニコニコしながら、「私はコミュニストです」と言った。こんなにくったくなく、自身をコミュニストと紹介する若者に出会ったのは初めてだった。
 
 敬老感謝ではないが、一通りの作業が終了すると、参加者の一人がビールをお土産(ご褒美?)にくれた。みんな私をいたわってくれているのだ。そういえば、ドイツはマルクス生誕200年だった。『共産党宣言』は今も生きているんだなぁ。
 
 
お疲れさま、のアンティファ・ビール
 

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著者略歴

  1. 辛淑玉

    1959年、東京生まれ。在日三世。人材育成コンサルタントとして企業研修などを行なう。ヘイト・スピーチに抗する市民団体「のりこえねっと」共同代表。2003年、第15回多田謡子反権力人権賞、2013年、エイボン女性賞受賞。著書に、『拉致と日本人』(蓮池透氏との対談、岩波書店)、『怒りの方法』『悪あがきのすすめ』(岩波新書)、『鬼哭啾啾』(解放出版社)、『差別と日本人』(野中広務氏との対談、角川書店)など多数。

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