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連載 デルクイ

トルコ 買い物文化を楽しむ

歴史の交錯地・トルコ
 カッパドキア

 世界遺産に登録された、トルコのカッパドキアを訪ねた。ここは、岩窟教会をはじめとした中世のキリスト教文化が保存されている、歴史の交錯地でもある。

 雄大な大地に向き合い、毎日定時に流れるアザーン(お祈りの告知)に耳を傾け、キリスト教徒たちの遺産であるワインを飲みながら、洞窟を利用して作られたホテルで時間を過ごすのは、本当に贅沢なひとときだった。

 トルコは、日本との交流も盛んで、お土産屋さんも日本語が堪能な人が多い。それは、日本人旅行客との長い接触の過程で培われたものだ。相当な努力の結果の日本語でもある。そうやって迎えてくれているのだ。

 イスタンブールのバザールを始め、トルコでの買い物は、売り子さんたちとの価格交渉が面白い。そもそも価格表がないところもあるし、仮に値段が書いてあっても、とにかく交渉しなければ始まらない。

 「何が欲しいの?」「どれが欲しいの?」と聞いてきて、「これいくらですか?」と聞くと、「いくら持ってるの?」と、会話は噛み合わないまま続く。でも、あーだ、こーだと言いながら、なぜか最後は妥結する。

 そんな価格交渉が、トルコが世界に誇る絨毯の公設販売所でも、町中の土産物屋と同じように行われている。
 
職人のスキルこそが価値
  美しいトルコ絨毯

 カッパドキアは、世界的ブランド「ヘレケ」など、トルコ絨毯の大生産地でもある。販売所でのセールスプロモーションは、生産工程の紹介をはじめ、完璧な日本語のパフォーマンスだったが、だーっと短時間の説明では、高額な商品を購入させるには無理があると感じた。

 おそらく、今まではそのような方法でも売れたので、これがパターン化されてきたのだろう。購入する人のレベルやニーズに合わせたとも言える。しかし、時代は確実に変わっている。

 これだけの品揃いで、美しい絨毯を手に取れるのは、滅多にない機会だ。日本のデパートで見るものとは、明らかにレベルが違う。光の角度で色合いが変わるシルクの絨毯にはため息が漏れた。表裏の区別ができないほど精密なヘレケの絨毯も十分に魅力的だった。数千円のお土産を買うのとはわけが違うのだ。だからこそ、その「価値」を伝えてもらいたいと思った。

 例えば、ドイツの陶磁器「マイセン」の展示販売工場に行くと、同じように製作工程が紹介されるが、彼らは徹底して『職人のスキルとその価値』を訴えていた。最も重要で価値あるものは職人であると。だから、伝統的な花柄だけでなく、中国人観光客向けには景徳鎮の焼き物かと思えるような図柄も普通に製造して販売していた。

 私の友人は、お金をためては、毎年一つずつマイセンの食器を購入し、何十年もかけて揃えている。そこには、受け継がれた伝統と、継承された技術の価値が共有されている。
 残念ながら、カッパドキアの公営展示場では、日本では一千万円で売られていた商品でも織り手についての情報はほとんどなかった。
 
絨毯に込められた女性たちの祈りと人生
 
 絨女たちは絨毯を織る

 一族にしかない技術(しかも、独特の文様)による手織りの絨毯は、柄が似ていても、同じものは二度と作れない。その熟練した手さばきで、何年もかかって織り上げる絨毯は、国宝級と言えるかもしれない。

 またそのスキルは、女性の社会進出が限られた社会で維持されてきたもので、一織り、一織りに、一族の歴史と、女たちの「人生」「祈り」が込められている。

 世界の王侯貴族がなぜトルコ絨毯を自分たちの城に敷いたのか。絨毯がイスラム世界でどのような空間を作り出していたのか。そして、上質な絨毯の上での生活がどれほど豊かなもので、それを織り続けている人々はどんな人たちなのか、といった「ストーリー」と「顔」こそが、消費者に伝えるべき情報なのではないかと思えてならない。

 いつかまたトルコに行けたら、またカッパドキアに行って、一畳ほどの絨毯を買おうと思っている。

 民族が交差した歴史の中で培われ継承された一族の技術。国を代表する織物は、家族に少しでも良い生活をと願った女たちが紡ぎ出したのだ。誇りを持って。

 同じ時代を生きたトルコの女性たちの人生と重ねて、残りの人生をその絨毯の上で過ごせたらと思う。■
 

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著者略歴

  1. 辛淑玉

    1959年、東京生まれ。在日三世。人材育成コンサルタントとして企業研修などを行なう。ヘイト・スピーチに抗する市民団体「のりこえねっと」共同代表。2003年、第15回多田謡子反権力人権賞、2013年、エイボン女性賞受賞。著書に、『拉致と日本人』(蓮池透氏との対談、岩波書店)、『怒りの方法』『悪あがきのすすめ』(岩波新書)、『鬼哭啾啾』(解放出版社)、『差別と日本人』(野中広務氏との対談、角川書店)など多数。

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