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連載 デルクイ

BTS(防弾少年団)から日本と世界を見つめる(1)

BTSのダンスにパンソリのリズムを見る
 
「BTS(防弾少年団)[i]」の、2019年のワールドツアーのスタートは米国だった。深夜のトーク番組「レイトショー」に出演したあとは、「ビートルズの再来」、または「ビートルズを超えた」と多くの人が評した。この番組の収録が、55年前(1964年2月)にビートルズが初めてアメリカでライブ公演をした場所「エドサリバンシアター」で行なわれたからでもある。そのためか、ステージ衣装も思わず「懐かしい」と声を上げてしまうほどビートルズを彷彿とさせたものだった。
 
 
The Late Show」オフィシャルYouTubeより
 
 私がBTSを知ったのは最近である。所属する研究所の中で、抵抗の音楽として「ラップ」を調べていたらBTSにたどり着いた。初めて観た彼らのMV(ミュージックビデオ)はIDOI(アイドル)だった。これはYouTubeで既に4億6千万回以上再生されている。
 
 このときのダンスの上手さと、映像のすばらしさ、そして、歌詞に驚愕した。
 

You can call me artist

You can call me idol

아님어떤다른뭐라해도/違う 誰がなんと言おうと

I don’t care

I’m proud of it

난자유롭네/俺は自由だ

No more irony

나는항상나였기에/俺はいつだって俺なんだから

손가락질해, 나는전혀신경쓰지않네/後ろ指を指さされた?だからどうなの?

나를욕하는너의그이유가뭐든간에/陰口の理由など関係ねー    

You can’t stop me lovin’ myself

얼쑤좋다

You can’t stop me lovin’ myself

지화자좋다

You can’t stop me lovin’ myself

OHOHOHOH OHOHOHOHOHOH OHOHOHOH

덩기덕쿵더러러

얼쑤

OHOHOHOH OHOHOHOHOHOH OHOHOHOH

덩기덕쿵더러러

얼쑤

(【IDOI(アイドル)】より 辛淑玉意訳)

『IDOI(アイドル)』オフィシャルMV

 
 子どものときに聞いていた「좋다(チョッタァ/よっしゃ、とか、いいぞ)」という、チュイムセ(民謡などの掛け声/歌詞中に赤字で表示)が耳に届いたからだ。これはマダン劇とかパンソリなどで、話が佳境に差しかかると出てくるもの。パンソリの鼓手や観客が、「うん、いいぞ」「そうだ、そのとおり」みたいな感じで掛け合うものだ。「オルス」も「チファジャ」も掛け声で、これは日本語には訳せない。他にもオルチ、オルシグとかいろいろある。「얼쑤(オルス)」や「지화자(ジファジャ)」そして、「덩기덕쿵더러리(ドンギドックンドロリ)」と続くと、もう、パンソリの世界にそのまま引き込まれる感じがするのだ。
 
 そして、一人の若者(J-HOPE)のダンスに釘付けになった。うまい! 「オッケチュムだ!」と思わず口から出た。その青年の姿の向こうに、在日一世の姿が浮かんだ。
 
 日本社会の中で、音楽が鳴り出すとハンカチや布を持ってすっと踊りだすのは、みんな在日のハルモニ(おばあさん)やハラボジ(おじいさん)だった。その姿を、不思議な感覚で、時には恥ずかしくも思って見続けていた。どんな思いで、日本社会で踊ったのだろうかと思う。
 
 いつだったか、在日の同胞先輩が、「朝鮮(韓国)人は(日本の人と比べて)頭がリラックスしているから(体の芯から)踊れるんだよ」と言ったことがあった。少しだけ救われた気持ちになった。
 
一般的に日本の踊りとの違いは「オッケ(肩)」にある。伝統舞踊では肩でリズム(オッケチュム)をとるのだ。日本で育った私には、いまも、体得できないリズム感である。懐かしさと同時に、「若い子が……すごいなぁ」と、言葉を失った。
 
写真中央がJ-HOPE
 
ヨーロッパでも圧倒的な人気
 
 しばらくすると、大学内のキャンパスでBTSのパーカーなどを着ている学生に気がつくようになった。たぶん、以前もいたのだろうが意識して見ていなかったのだ。
 
「誰のファンなの?」と聞くと、「SUGA」と答えた学生が3人。音楽的才能もそうだが、SUGAの詞には同世代の若者を引きつける何かがあるようだった。その上、最も東洋的でエキゾチックにも見えるのも魅力の一つだ。研究者との集まりで私が「BTSのどこが好き?」とたずねまわると、多くは「キレイ」と口にした。「歌もダンスも上手で、その上、キレイだ」と。
 
BTSのパーカーを着るファン(「93」はメンバー・SUGAの誕生年)
 
 2018年のワールドツアーのドイツ公演はベルリンだった。チケットは即日完売状態で、チケット屋で取引されている金額は日々高騰し、私がチェックしたときは日本円で30万以上もした。写真の学生も、行きたいけどとても買えないと言っていた。それほどの人気だったのだ。
 
 大学の関連施設のジムでは、グラミー賞(61回)で賞を総なめにしたChildish Gambino の「This Is America」とBTSが繰り返し流されていた。
 
 街に出ると、BTSの曲が流れてきて、振り向くとK-popのランダムダンスをやっていた。これは、K-popの曲が部分的に編集され、その曲に合わせて、踊れる人たちが、入れ替わりながら踊るという、公共のパフォーマンスである。これが世界中で繰り広げられているのだ。
 
 イタリアのランダムダンスを一つ紹しよう。
 
 
 これが、ドイツのケルンでも、アメリカでも、ブラジルでも、世界のあちこちで開催され、ネットにアップされている。K-popは、ここまで愛されていたのか、と、ただただ驚いた。新曲が発表されると、その日のうちに、コピーダンスがネット上に溢れる。その早さにも驚く。どうしてこんなに早く覚えられるんだろう、と。
 
取り残される日本
 
 日本では、嫌韓の嵐の中で、BTSの地上波テレビ出演がキャンセルされて久しい。きっかけはJIMINの着ていた「Tシャツ」の柄が騒動[ii]になったことだ。(これについては、追って記載する。)
 
 しかし、その人気は絶大で、日本での公演チケットも、あっという間に完売になる。たとえ大手メディアが無視しても、CSやネットTVなど、女性をマーケットにしている産業は、すでにBTS抜きには成り立たない。10代20代が読む芸能誌はBTSで溢れ、この6月には、30代40代を網羅する『anan』6月号(2057号)の表紙に登場するだけでなく、特集も組まれるという。この原稿を書いている時点で、出版社であるマガジンハウスには問い合わせや予約が殺到しているという。
 
 AFP通信に掲載された現代経済研究院(Hyundai Research Institute)の発表(2018.12)によると、BTSの韓国での経済効果は年間4000億円。衣料品や化粧品、食品といった消費財の輸出のうち、10億ドル(約1120億円)以上がBTSに関連するものだという。
 
 この流れは世界各地に及び、BTSで経済的利益が見込めると踏んだ経済人は多い。すでに米国の大学では、BTSを分析することで新しい市場の分析を図ろうとする講座もあり、日本がなんやかやとケチをつけている間に、BTSの分捕り合戦が繰り広げられている。
 
 日本が世界のマーケットから遅れていると感じるのは、ファーウェイの5G問題だけではない。無料動画配信のYouTubeを見ても、日本語での検索と、英語、または他の言語での検索では、その内容が大きく異なることに改めて気付かされた。もしかしたらブロバイダーの国の識別で検索結果が異なるのかもしれないが、とにかく英語やドイツ語、スペイン語などではBTSの楽しみ方がどんどんアップされ、情報の共有される速度の速さに目眩がしてしまうほどなのだ。
 
メディアを駆使して世界市場に
 
 日本語検索の場合は、文字のスクロールで「嫌がらせ」や「揶揄」したものばかりが上位に上がってくる。BTSのYouTubeの再生数についても、「ごまかしがある」といったコメントが何度も目に入り、伝えるべきことはそれなのか、と、日本の闇の深さを感ぜずにはいられなかった。ネトウヨの主張の裏には「蔑視」と「嫉妬」が垣間見える。彼らのYouTubeの使い方は、世界のそれとはかなり違う。彼らにとってSNSとは、情報共有の手段ではなく、匿名性を利用した負の感情のはけ口なんだろうなぁ、と思った。
 
 BTSの無料LINEスタンプも人気だが、ネトウヨでこれをBTSのメンバーがデザインし(プロが仕上げ)たものとは知らずに使っている人も少なくないだろう。
 
BTSのメンバーがデザインしたオフィシャルキャラクター「BT21」のLINEスタンプ
 
  いち早くニューメディアを活用したものが市場を独占する。例えば、歌舞伎が全盛だった時代に映画の世界に最初に手を伸ばしたバンツマ(阪東妻三郎)は一躍トップスターに駆け上がり、次のテレビメディアには、映画の世界では弾かれていた黒柳徹子などが次世代のスターとして登場した。長いテレビの時代を経てSNSの時代に入ると、著作権などで映像を出し惜しみしてた日本の芸能プロダクションは国際マーケットに出遅れた。早い段階からSNSを手がけた、「BTS」も含むK-popが、アジア勢としては初めて世界市場に大手をかけていると言っていいかもしれない。
 
 彼らのネット活用については追って述べるが、市場が日本の約半分の韓国では、世界に打って出ない限り次がない。学生へのインタビューでも、韓国人の若者の7割が海外に出たいと言い、その割合は日本(3割)の2倍以上なのだ。韓国内の競争を勝ち抜いてやっと世界の市場に出ていけるという現実から目を背けては生きていけないのだ。このステップアップの中で一番大変なのは、おそらく韓国内での競争を勝ち抜くことだろう。ざっとK-POPを見渡すと、踊りができて(しかも、踊りながら)歌がうまいというのは、もう、クリアしなければならない最低条件となっているからだ。たとえれば、ロシアでシンクロの選手がロシア代表になれれば、そのまま世界のトップランクになるというのと同じだ。
 
 私は、K-popに関しては素人と変わりがない。だから、芸能界情報や彼らの音楽の分析をここで書くことはできない。ただ、もう還暦を迎えた私が、どうしてここまで、孫のような存在である若者の活動に心が癒やされるのかを考えた。その理由を、私なりに言葉にしてみたいと思った。(続く)
 
 

 [i]防弾少年団」BTS(방탄소년단 バンタンソニョンダン 英語表記は「Beyond The Scene」)名前の由来は、「10代・20代に向けられる社会的偏見や抑圧を防ぎ、自分たちの音楽を守り抜く」というもの。デビューは2013年。2016年からは破竹の勢いで音楽賞を総なめにし、ビルボード連続受賞となった。2019年にはグラミー賞でプレゼンテーターになった。世界的な規模で「ARMYARMY (Adorable Representative M.C for Youth:若者を代表する魅力的な進行役)」と呼ばれるファンクラブがある。防弾少年団の「防弾」に「軍隊」という言葉を重ねており、一緒に走り抜くという思いがそこにはある。

[ii]BTSの2018年来日の際に、メンバーが以前原爆投下時の画像をプリントしたTシャツを着ていたことがネットなどで波紋を呼び、音楽番組などへの出演が取りやめになった。(来日公演は予定通り敢行)

 

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著者略歴

  1. 辛淑玉

    1959年、東京生まれ。在日三世。人材育成コンサルタントとして企業研修などを行なう。ヘイト・スピーチに抗する市民団体「のりこえねっと」共同代表。2003年、第15回多田謡子反権力人権賞、2013年、エイボン女性賞受賞。著書に、『拉致と日本人』(蓮池透氏との対談、岩波書店)、『怒りの方法』『悪あがきのすすめ』(岩波新書)、『鬼哭啾啾』(解放出版社)、『差別と日本人』(野中広務氏との対談、角川書店)など多数。

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